まえがきに「恥ずかしい話だが、ごく最近まで critical という英語のシンボルが見えなかった」と述べたうえで、次のように語る。
(前略)還暦を迎えた私が挑戦しなければならないのは、英語の「裏」なのである。「タイムの見出しが読めない」という言葉を聞くたびに、”斬れる英語”とは「裏」なのだ、「表」の訳に甘んじてはだめだよ、と苦言を呈してきた。(p.3)
第一章では、著者がこれまで書いてきた英語体験を完結にまとめて書かれている。
いろいろと紹介したいところではあるが、日本人が犯しやすい論理的誤謬 (logical fallacy) が役に立つと思う。false dilenmma のところで、「イエスかノーかでお答えください」という質問に対して、「イエスかノーかでは答えられません。なぜなら…」という "escape betwwn horns" (くぐり抜け論法)というのがあるという指摘も参考になる。
ad hominem (感情的論法)
bandwagon (道づれ論法)Everyone's doing it and you should do it.
begging the question (循環論法)He's a slow reader, because he can't read fast.
equivocation (玉虫論法)I've never been wrong, because I'm still part of the right wing.
false analogy (飛躍類推論法)Since those brothers and sisters look alike, they must think alike.
false authority (権威盗用論法)Todai's medical doctors predict that Japan's economy will pick up again.
false cause (風が吹けば桶屋がもうかる論法)
false dilenmma (強引な両刀論法)The Tokugawa Shogunate had two choices: to let foreign traders live in Japan or not to let them in.
guilt by association (連座論法)He must be dishonest because his parents are car salespersons.
hasty generalization (飛躍一般化論法)All Japanese have a double standard.
non sequitur (因果欠如論法)He's a good person, so he'll never be a credit risk.
oversimplification (単純化論法)You're so persistent because you're type A blood.
また、「事実と意見を混同してはならない」という箇所では、孫引きになるが。
Facts are reliable pieces of information that can be verified through independent sources or procedures. Facts are valued because they are believed to be true.
Opinions are judgements or inferences that may or may not be based on facts. ("Harbrace College Handbook (Harcourt Brace) p.291)
だれもが共感すると思われるのが、「英語に心を奪われると、情報が逃げる」。「内容を求めると、英語が消えるが、内容まで消えるリスクが生じる」というジレンマである。
(前略)タイムから英語を学ぶのではなく、情報を get することに戦略転換をした。情報を「主」にし、英語を「従」にするのだと、プライオリティー戦略を大きく転換させると、不思議に、英語の語彙が自然増殖し始めるのだ。(p.37)
以下のエピソードは以前、著者の別の本で読んだことがあるが、そのときの上司は西山千氏であった記憶があるのだが、これは記憶違いか。
上京後の私は、いつどこでもタイムを手元から離さなかった。同時通訳の道は険しかった。何度も挫折感を味わった。自分の力に絶望して、夜空を見上げて独り泣きしたこともあった。所詮、オレの英語もここまでだ、大阪で英会話を教えていればよかったのだ、と自らを責め始めると、悲しさが極致に達し、喜びに変わっていくのか、自分自身を笑い飛ばしたくなる(こうなりゃ、やるより他はない)。
上司であった日系米人、上野四郎氏に、「どんな勉強をすれば同時通訳がモノにできるのでしょうか」と尋ねてみた。
「簡単ですよ。毎週、タイムを隅から隅まで読むことですよ」とサラリと述べられた。
毎週、タイムのcover-to-cover reading (始めのページから終わりのページまで読み通すこと)に挑戦を始めたのはこの頃。三十歳ホヤホヤの頃であった。(後略)
(p.38)
面白いなと思ったひとつは、著者が「文法」を強調していることだ。たとえば。
Teachers are generally given basic guidelines on which kinds of personal contact with children are acceptable, but adults who volunteer to work with children on an informal or infrequent basis often don't realize that we are living in a new world in which a well-intentioned hug can become a criminal offence. ( "Block That Hug" p.56)
どう考えてもゴツゴツしており、速読ができない。こんな時は、文法に戻ればよい。主語を探す。そして述語を探す。関係代名詞を見つければ後から訳す。しかし、こんなことばかりしていると、せっかく頭から読み始めた習慣がくずれ、昔にやった後から前へ訳読するクセに戻ってしまう。
そこで私が勧めるのは、一度文法のルールに従って内容をしっかり把握したら、その文章を何度も音読することだ。とくに point readers は、息と唇で覚えることにより、自然と語感を身につけていけるからである。(p.69-p.70)
文法のことでは、チョムスキーの言語哲学を紹介しながら、「言語学者のノーム・チョムスキーならきっと、「文法を学ぶ修行を怠るな」と読者を励ましてくれるだろう」と書いている。さらに別のところで、「外国で生まれ育った人には、日本の学校で学ぶ英文法は必要でないかもしれないが、文法は避けて通れない難所 (critical path) である」とまで著者は言っている。
ちなみに、本書で紹介されている ”Don't be alone in a car with someone else's kid.” や ”All sorts of ”private” counseling with children should be held with the door open and in a well-traveled area.” は、私自身も、アメリカ合州国やアオテアロア・ニュージーランドでよく聞いた忠告だ。つまり、何かハラスメントを受けたと訴えられても身の潔白を証明するすべがないからと、車にヒッチハイカーを乗せて見知らぬ人と2人になってはいけないという忠告や、ひとりの学生を大学教官室に入室させて、大学教授はドアを閉めて二人っきりになってはいけない。ドアを開放しておくべきという忠告だ。理屈はヒッチハイカーの乗車と同じ。
よく言われていることではあるが、「英語のリズムは三拍子」も大切な指摘。
「努力だ」「がんばれ」「ムリしなさんなー肩に力を入れるな」「ラクして英語をモノにしなさい」「試行錯誤だ」という日本語を英語にしなさいと言われれば、「たいがいの日本人はきっとビッグワードを使うだろう」と著者はいう。しかし…。
Try.(努力だ) Try. (がんばれ)
Don't try too hard.(ムリしなさんなー肩に力を入れるな)
Make it in English without trying.(ラクして英語をモノにしなさい)
Try, try and try.(試行錯誤だ)
「彼女は粉骨砕身努力した」も二通りの訳が考えられると著者はいう。
A. She has made a strenuous effort.
B. She tried, tried and tried.
Aは日本人好みで左脳的であるー和英辞書的である。Bは右脳的でリズムがある。そのリズムはマザーグースのそれで、三のリズムである。Three blind mice, three blind mice.というやつだ。
「英会話をモノにするには努力に始まって努力に終る」
これも、To make it in spoken English, practice, practice and practice. Practice, practice and practice.
政治家の好きなリズムはこれだ。What Americans want: jobs, jobs and jobs.
タイムの英語に強くなることは「多読、乱読だ」と答えるなら、Read, read and read.の三拍子。これが欧米人のリズムに合うのだ。(p.81)
同じ著者だったか、どこかで読んだ記憶があるが、MLKの変形三段論法の紹介もある。
God created us in His image.
God is white.
Therefore, blacks are not human.
この笑いのリズムに、そしてロジックに日本人がついていけないのだ。斬れる英語にはリズムがある。タイムの英語にも斬れるリズミカルな表現が多い。(p.82-p.83)
以下は、著者がひろった表現語句の紹介。
なかには、seize the day や there's no turning back。などお馴染みのものもあるが、いくつか列記しておこう。
I'll do whatever it takes to win, and who cares what I need to believe in to do it!
Sumo is as much a show as it is a sport.
on top of the world/ on cloud nine
I'll never get Vietnam out of my heart and my soul.
Give me philosophy or give me death. cf. Give me liberty or give me death.
go cold turkey/ kick cold turkey
It would level the playing field and allow programmers to write applications just as good as Microsoft's.
Chances are, they will be killing civilians for another 200 years.
India and Pakistan are emotionally unstable countries.
Some people get so stressed out by the poverty that ~
eat and live well
corporate culture
と、キリがないので、この辺にしておく。