「英単語「比較」学習帳」を読んだ

英単語「比較」学習帳(2000年)

 日本語の語彙体系と英語の語彙体系が異なることは言うまでもないが、言語系統的に、日本語と英語との親族関係がないために、英語を日本語で理解しても、語彙的に、そして文化的に、英語を使いこなすことはむずかしい。

 初級学習者の段階であれば、仕方のないことだが、中上級者となれば、いわゆる英英辞典で理解することが必要となる。

 そして、英語を話すときも、「ああ、いま俺は日本語で考えていた」ということが体験上多くなる。

 これは本書とは関係のない話になるが、たとえば、文化的なことでいうと、handkerchiefという語彙がある。もちろん、「ハンカチ」という日本語になるのだが、handkerchiefを、いわゆる英英辞典で調べてみると…。

handkerchief    (usu square) piece of cloth or paper tissue for blowing the nose into, wiping the face, etc. (Oxford Advanced Learner's Dictionary)

 

handkerchief    a piece of cloth that you use for drying your nose or eyes (Longman Exams Dictionary)

 つまり、日本語でいうところの、手洗い後に手を拭くハンカチというより、英語では、鼻をかんだり、顔をふいたり、あるいは、鼻や眼を乾かすための、四角い布切れや紙のティッシュ―のことを言うのである。つまり、handkerchief を、「ハンカチ」と訳してみても、文化的文脈が違うということになる。

 ケリー伊藤氏の本書の話に移るとすれば、英語教師にはよく知られている「見る」の御三家である see, look, watch の違いや、hear と listen の違い。come と go。speak と talk。say と tell。これらを初級者が日本語を介して訳して覚えてみても、語彙的な差異を「比較」して理解しなければ、役に立つ知識とはなるはずもない。中学生段階で日本語を介して、see, look, watch を「見る」とあいまいに覚えたとしても、高校段階ではsee, look, watch の違いを認識し言語体験しておかなければならない。

 「英単語「比較」学習帳」では、母語話者にとってみれば、意識にものぼらず、たくさん聞いてきた表現を自分でも使っているだけの話なのだろうが、外国語として学んでいる私たちにとっては、意識的に学ばないと理解しにくいことが書かれている。

 本書では、ケリー伊藤氏による、まさに英単語「比較」学習帳で、簡潔な説明と練習問題、そして解答と解説が、ほぼ見開きで書かれている。読みやすく、知っていてよいことが書かれている。

 それほど多くはないが、下ネタもあるので(英語学習的にはたいへん重要な指摘であるが)、おそらく英語をやりなおす会社員向けなのだろう。けれども、different と wrong 。grow と raise 。end と finish。accept と receive 。happen と occur。hurt と injure 、wound。admit と allow 、permit。fall と drop。ashamed と embarrassed。severe と strict、など、高校・大学生にも、大いに役立つだろう。

 fit と suit 。expect と anticipate 。fat と plump などは、ひょっとして、かけだし英語教師にも役立つかもしれない。

 「前置詞、この使い分けで正解」のPart 5については、イメージしにくい「前置詞」分野を扱っているため、紙幅的には、分量が足りていないと感じた。

 ということで、「英単語「比較」学習帳」はお薦めの一冊となる。