ダニーデンまでの道のりは大変だった

レンタカーでダニーデンをめざす

 クライストチャーチ(Christchurch)からダニーデン(Dunedin)までの道のりは、ちょっと大変だった。
 連れ合いは朝6時発の便に乗ってオークランド経由で成田まで帰るので、先に彼女と別れを告げることになった。ホテルから飛行場までシャトルバスに乗せてもらい、彼女の見送りを済ませると、今度は娘と私が飛行機に乗り込む番だ。私たちの便の出発時間までは多少余裕があるので、空港内のカフェで簡単な食事をとる。
 軽い朝食を済ませて待合室で飛行機の出発時間を待っていると、子どもたちがフィールドワークをしている。グループごとに空港内を動き回っている。私たちの座席の横に陣取ったグループは飛行場の中のユニバーサルサインが書かれた問題用紙に集団で解答作業をしている。大体5人から6人の児童に、一人ずつ大人がついているようだ。全部が教員ではなく、中にはボランティアの大人もいるのではなかろうか。生徒を全部集めればかなりの数になるのに、小集団に分かれているので、空港内であまり目立たない。子どもの指導のやり方はきめ細かく、ていねいなようだ。
 7時前に、クライストチャーチからダニーデン行きの飛行機に、娘と二人で乗りこむ。機内には、ビジネスマン風の人たちが少なくない。1時間もしないうちに飛行機は順調にダニーデン上空に到着したが、なんでも霧のために着陸できないという放送が入る。ダニーデン上空で待機しながら旋回せざるをえないが、燃料はたっぷりあるので安心してくれと機長がアナウンスで報告している。まさか飛行機がクライストチャーチに帰ることはあるまいと私は楽観していた。ところが、時間が経過してから再度アナウンスが入り、霧が濃すぎて着陸態勢に入れないので、あきらめてクライストチャーチに戻るという。内心わたしは、ええっ、そんなことってあるのという気持ちになったが、機内で慌てている人はいない。スチュワーデスも、再度、飲み物だの手拭きだの、飴だのと、配り始めた。乗客の意識はしょうがないじゃないのといった風なのか、よくあることなのか、冷静そのものである。「一体どうなるの」とスチュワーデスに聞くと、クライストチャーチに着いたら、ともかくカウンターに行ってくれというだけだった。
 クライストチャーチに到着してから、乗客がカウンターに並ぶのは早かった。運が良ければ、何人かは次の便に乗れるかもしれないということなのか。ビジネスマンとおぼしき男性は、話し相手は会社の同僚なのであろう、携帯電話で、「そうなんだよ、クライストチャーチからダニーデンまでは行ったんだけど、霧のために着陸できなくってさ」と、困ったもんだという気持ちにちょっぴり楽しそうな気分を入れて報告している。私たちの順番が来て、担当の女性に次の便があるかどうか調べてもらったが、予約状況が一杯でダメそうである。その担当者が小声であっちのカウンターに並んでくれというので、何か特別な配慮でもあるのかと期待してそちらのカウンターに行って話をすると、とりあえず時間が来たら壁側に並んでくれと時間を指定された。指定された時間に壁側に並んでみると、私たちの前に若い男性が一人並んでいる。現在はオーストラリアで就職しているのだが、彼はオタゴ大学の地学専攻の卒業生であった。この実直そうな青年とも話をしたが、私たちに空きの搭乗券がまわってくる気配はなかった。
 別の男性の担当者があらわれて、「レンタカーが一番いいんじゃないか」と私たちにすすめながら、「クライストチャーチからダニーデンは結構楽しいドライブだよ」などと、能天気なことを言っている。2枚の券が返却される際に「これは日本の旅行業者の方で、キャンセル処理をお願いしてください」と言われた。日程上の都合から判断して効率よくまわろうと今回の旅では飛行機にしたのに、一体全体どういうことだろうか。考えてみると、海外での飛行機で搭乗できずにキャンセルというのは初めての経験だ。バスもあるのだろうが時間的に連絡が悪そうだ。結局、我々にはレンタカーに乗るしか選択肢がなくなってしまった。
レンタカー会社のカウンターで車を借りる手続きをし、カフェで軽い食事を済ませ、長時間ドライブに合わせて食べ物と飲み物を購入して、ダニーデンをめざして12時に出発した。