オセアニアの税関はとてもうるさい

 ブリズベンの空港に着いて、税関にすすむ。機内ですでに申告書を書いておいたのだが、親切そうな中年女性の係員がいろいろと聞いてくる。問題なく友好的に会話がすすみ、X線で私の荷物が調べられる際に、なんとなく丁寧にチェックがされている様子がうかがえた。オーストラリアは、昨年タスマニアを訪れたときもそうだったが、警察犬のような犬が数頭いて、客の荷物をかぎまわり、何か嗅ぎ取ると、担当者が尋問することになっている。犬には逆らえないのだが、私の場合、犬ではなく、この女性担当者がしつこかった。どうやら最初から友好的というのは私の全くの勘違いだったらしい。
 私の申告書を見ながら、荷物は自分のものか、荷物は自分でパッキングしたか、申告書は自分で書いたか、申告書に誤りはないか、申告書をもう一度読めと言う。「何か問題あるんですか」と聞くと、それを聞いているんだ、自分で考えろという感じで突き放される。これではまるで、尋問である。
 仕方がない。仰せの通り、再度黙読してみると、まずい。装身具の貝が入っていた。ハミルトンの露天商で買ったものだ。堪忍して、「えーと、貝があると思います」と言うと、その係員はそれみたことかという顔つきで、「その貝はどっちのバッグに入っているの」と質問する。「(手持ちの)バックパックの方です」と答えたにもかかわらず、ぎゅうぎゅうに詰めた大きな荷物の方も全部あけられ、洗濯ものや、下着、石鹸、紙類だのが広げられた。つまり、ほとんど大したものは入っていないのだが、そこに木製のリンゴが入っているのに気がついた。そうだ、アカロア(Akaroa)の職人がつくった木製のリンゴも入っていたのだ。木製とはいえ、リンゴの形がまずかった。この置物は、木製なのに本物そっくりなのだ。
 「これは木製で、本物のリンゴじゃないんです」と、懸命に説明してもダメ。本体に傷がつかないようにではあるけれど、きれいにラッピングされた木製のリンゴを無残にもカッターナイフでザクザクと私の目の前で切り裂いていく。木製であることを確認して彼女が言ったことは、「申告していなかったからよ。申告していれば問題なかったのに」というコトバであった。申告っていったって、本物のリンゴじゃないのに申告しないといけないわけなのと言おうとしたが、こういうときは何を言ってもダメ。黙って従うだけと観念せざるをえなかった。
 彼女がX線の検査技師と話をしている様子をうかがうと、何か別のものを探しているようだったが、お目当てのものを見つけることはできなかったようだ。ぎゅうぎゅうに詰めていたから、何か別のものに見えたのかもしれない。彼女の私への最後の言葉が、「じゃ、ブリズベンでのスティを楽しんで!」だったから、これには参りました。こんな仕打ちをされても、旅行者はただただ従うしかない。