人という字は、どういうときにジンと読み、どういうときにニンと読むのか

Instant Vocabulary

 今日が締め切りなので、語彙形成に関する課題の最後の仕上げにかかっている。
 イギリス語の語彙は、ラテン語ギリシャ語を根っこに持っている語彙が少なからずあり、またフランス語やイタリア語、ドイツ語からの借用語も少なくない。派生語をつくる接頭辞や接尾辞は、語彙学習のテーマとしては、とてもポピュラーなものだ。
 例えば、「数えられない」という意味のun-count-ableだけど、countがbase form(root)で、「数える」。それに接頭辞で「否定」をあらわすun-と、「可能」をあらわす接尾辞の-ableがつくことによって、「数えることができない」という意味になる。もちろん、「数えることができる」のcountableも一緒に理解できるわけだ。
 これはちょうど、日本語の「算」から始まり「可算」と「不可算」の関係に似ている。
 「ひらがな」を中心とする日本語表現は平安時代、例の「枕草子」の頃に完成されたと言われているらしく、さらに明治期の西洋文明がどっと押し寄せてきたときに、漢語を使って訳した語彙が多く登場したと言われているようだが、ご承知のように、現在はカタカナを使った借用語も少なくない。つまり、日本語の語彙も歴史的に形成されてきているわけだ。
 さて、イギリス語の語彙の作り方であるが、スペイン語の「バーベキュー」からそのまま「借りてくる」。ラテン語を訳して「オールマイティ」という語をつくる、つまり「外国語を訳す」。「ブック」は「本」だけど、「予約する」という意味を新たに作ってしまう、つまり「形はそのままで、意味だけ転移させてしまう」。「ティーバッグ」のように「語と語を合成して新しいものをつくる」。「インフルエンザ」が長いので、「フルー」と「ちょん切ってしまう」。「ピンポン」や「シーソー」のように「その語を繰り返して新しいものをつくってしまう」。「WTO」「UK」のように、「イニシャルからつくってしまう」。「ブランチ」や「テレックス」のように、「ブレンドして少し短くして使う」という8つの作り方があるという。
 日本語はどうかというと、「形はそのままで、意味だけ転移させてしまう」というやり方がどうも日本語の性に合わないらしく、例示が思いつかないのだが、なんといっても圧倒的に多いのは、「合成語」だろう。
 例えば、「会」だけど、「会う」「集まる」ということから、「誕生会」「学芸会」「運動会」などさまざまな合成語をつくることができる。さらに、次のように、どんどん長くすることができる。

    • 討論会
    • 批判討論会
    • 徹底批判討論会
    • 年金問題徹底批判討論会

 日本語の「合成語」における漢語の果たす役割にはものすごいものがある。
 おそらくこうしてどんどん長くすることができるので、そのこともあって、日本語では、「日教組」「自公連合」のように、ちょん切ったり、「パソコン」のように、ブレンドしてしまうことも少なくないのだろう。
 ワイカト大学(The University of Waikato)の図書館には結構日本語の蔵書があって、イギリス語の語彙の形成過程と日本語の語彙の形成過程について、少しだけ調べてみた。
 次の例示は、「人」を、「ジン」と読む場合と、「ニン」と読む場合とがあるのだが、言われてみればなるほどと思ったけれど、どういう場合に、「ジン」と読み、どういう場合に「ニン」と読むのか、私は知らなかった。
 みなさんはお分かりになりますか。

    • 民間人、社会人、文化人、国際人、日本人、外国人、中国人、朝鮮人ニュージーランド
    • 管理人、支配人、発起人、使用人、案内人、相続人、弁護人、仕置き人、処刑人

 正解は、体言(名詞)につくときには、ジンと読み、用言(動詞)につくときにはニンと読むということだそうだ。ジンは、地名や国名と結びつくことが多いとも書いてあった。
 なるほどね。多少の例外はあるようですけど。職人なんかは例外なのかな。
 今思いついたのだけれど、「世捨て人」(よすてびと)ってのもあるな。実に漢字は多重構造だ。漢字一文字で深いイメージがあらわすことができる。だから日本人は文字の中に意味を込めて人の名前なんかにもこるんだろうね。

 ところで、イギリス語の語彙形成で、こうしたことが知りたければ、なんといっても"Instant Vocabulary" by Ida Ehlich(pocket)がお薦めだ。ラテン語ギリシャ語の語源や派生語、接頭辞、接尾辞などを知りたい意欲的な高校三年生の必読書と、私は勝手に思っている。