タウンズビルへの日本軍の空爆

セミが鳴き始めた

 ポールは、もちろんニュージーランド生まれで、パスポートもニュージーランドのものだから、オーストラリア人ではないけれど、21年間もタウンズビルに住んでいるからクイーンズランダー(オーストラリアのクイーンズランド州に住む人たち)でもあるとは言えるのだろう。
 クイーンズランド州は、別名「休暇のための州」(Holiday State)とも呼ばれ、教育ならメルボルン、ビジネスならシドニーというイメージがあるけれど、休暇やアウトドアのアクティビティなら、なんといってもクイーンズランド州であるに違いない。
 これは、パケハなんて呼ばれるのは嫌だと感じているアレックスやジュディの口癖でもあるのだが、アレックスは自分のことを、「南の海の島に住む人間」(South Sea Islander)と考えている。
 息子のポールもそうだ。
 自分はすでにヨーロッパ人では、ありえない。自分たちは「南の海の島に住む人間」(South Sea Islanders)なのだと。
 ところで、私がオーストラリア人と会って話すことは、紀伊半島から渡った木曜島の真珠取りのダイバーの話もよくするのだが、私がよくする話は、ダーウィンへの空爆や、シドニー湾への日本軍の特殊潜航艇の奇襲攻撃や、日本軍捕虜が収容されたカウラ事件の話だ。
 捕虜となっておめおめと生きていては、家族に対して申し訳ない。戦死なら、名誉の戦死となるという、戦前の教えがあったわけで、集団脱走事件といわれているカウラ事件は、まさに「集団自決行為」(吉田昌)であり、そのために、多くの日本人犠牲者を出してしまったのであった。
 こうした話をポールは全て知っていた。ココダトレイルの話を私がしても、ポールは知っていた。
 それどころか、被害はなかったけれど、ポールが住んでいるタウンズビルにも、日本軍は空爆をしたとポールがいう。
 アレックスも、そうそう、そうだったねと、頷いている。
 ダーウィンへの爆撃は有名な話でよく聞いていたが、タウンズビルへの爆撃なんて、そうした話を今まで聞いたことのない私は大変驚いた。
 「インターネットで検索すれば出てくると思うよ」とポールが言うので、「Townsville, Japanese army, bombingなどのキーワードを入力すれば、出てくるでしょうね」と私が言うと、「うん、そうそう」と、ポールは答えた。
 実際にインターネットで検索してみると、たくさん出てきた。次はその中のひとつ。
http://home.st.net.au/~dunn/ozatwar/tvbomb01.htm
 自分達のしたことに対して、日本人は、歴史を探ることもなく、また情報も知らされていないのではないかと、再び私は痛感した。オーストラリアは、日本人が親近感をもつ国のトップになるというのに、両国間の歴史に私たちがあまりにも無知であるなら、本当の意味での友人にはなれないだろう。
 ためしに今度は、「タウンズビル、日本軍、爆撃」という日本語で、インターネットで検索してみたら、オーストラリアを旅した日本人の旅行記で、タウンズビルを爆撃したことを忘れてはいけないというような、まともなホームページも検索できたけれど、太平洋戦争のシュミレーションゲームについてのコメントのようなものが圧倒的に多い。これでは、日本社会の成熟度としてはあまりにも幼稚すぎると指摘されても仕方がないだろう。