友達をつくるには、まず自分の情報を与え続けること

 さて友達の作り方だが、大勢のクラスメートが円陣になって話しているときに参加してみるのだが、会話についていけず、みんなが笑うときに一緒に笑ったりするのだが、友達になるのは実にむずかしいという。
 確かに、これは誰にでもある経験だ。
 こうした場合、どうしたらよいのだろうか。
 私が思うに、確かに一つは、言語の問題がある。そして、もう一つは、戦略・戦術、作戦の問題がある。
 言語の問題で言うと、まずは聞き取りだ。
 外国語学習の場合、頻度数というのが重要な概念で、何度も聞くものは使われやすく、そしてまた自分でも積極的に使わないといけない。
 ”It’s cool!”(「いいね」)って、聞いたことあると彼女に聞くと、あると言う。
 そうした何度も使われるコトバは、当然耳に残るから、それをノートに書きとめるといいと思うよと、私は助言をした。彼女はそうした表現はすでにノートに書き溜めていると言った。実に頭のいい子だ。
 電話にでるとき、テレビでコマーシャルに入るとき、バリエーションはあるけれども、大体定型がある。何度も聞く表現を書き留めると、その時点で、その表現はすでに自分のものになっているはずで、こうした短いフレーズが結構使えるのである。
 それから、言語の問題とは別に、戦略・戦術、作戦の問題がある。
 私が彼女に薦めたのは、一点突破、各個撃破作戦だ。
 つまり、一人の親友をつくって、そこからネットワークを広げていく作戦である。
 外国語による会話だが、知り合いによる一対一の会話が一番簡単だ。
 次に簡単なのが知り合いによる三四人くらいの会話。知り合いでも、円陣になっての会話が一番むずかしい。
 相手が知り合いでない会話になると、当然のことながら、難易度は増す。
 先に電話のことで書いたように、相手の顔が見えないと、さらに難易度は増す。
 知り合いによる一対一の会話が何故簡単かというと、聞こうとする相手の姿勢が違うし、相手が自分に合わせてくれるからだ。さらに相手が自分に対する背景的知識があるから、簡単なコトバでも、深い理解が可能になる。
 知り合いでも円陣になっての会話は、話が簡略化され、話題がポンポンと飛ぶし、まずそれについていくのも大変だし、合いの手を入れるのも大変。気の利いたことを言うのは、さらに至難の技だ。
 逆に、円陣を構成しているキーウィからすると、彼女は、どう見えるのか。
 このアジア人は、話もわからないのに、何故ここにいるのだろうか、何を考えているのかとなる。
 つまり、全く情報を与えないでそこにいるというのは、不可解な存在なのだ。
 だから、こういう場合は、なんとかして自分の情報を与えないといけない。
 私のお薦めは、円陣の中の一人に絞って、復習のメールを出すことだ。「昨日の会話で、”Awesome, yay.”とみんなが言っていたけど、awesomeってどういう意味なの」と、例えばメールで質問することだ。
 こうした簡単な質問に対して、答えを知っていても教えてくれないキーウィは、皆無だろうと私は見ている。キーウィは、余裕がある分、余裕のない日本人などより、よほど親切だ。
 ただ、私たちから情報を与えなければ、おそらくキーウィは何もしないだろう。キーウィは個人の好みや嗜好性を重視し、けっしておせっかいではないからだ。
 察しゲームなんて関係のないキーウィの中でも、高校生はまだ未熟な分、一層気が利かないから、配慮はない。逆にいえば、それがキーウィの配慮なのだ。
 メールをもらったキーウィの高校生は初めて思うだろう。「ああ、あの子は、awesomeってコトバを知らないんだ」と。
 こうしたメールで質問をし続けると、そのキーウィは、この日本人の子について情報が集積してくる。その子の興味・関心もわかってくる。その子に親切にしようと思えば、親切にできる条件がキーウィにようやく整ってくるのだ。
 今や、日本のアニメなど、日本に興味を持っているキーウィも少なくないから、こうして自分がどんな人間なのか、あの手この手で、相手に情報提供できれば、自然と仲間として受け入れられていくだろう。
 集団と一緒にいる際に自分のことを表現できなくても、いろいろな方法で自己表現できればいいのである。
 集団と一緒にいるときは、わからないことだらけでも、ふんふんと聞き流していればいいのである。リスニングの練習くらいに考えておけば充分だ。