学校の序列化がすすむのではないかと懸念されてきた全国学力テストが、とうとう、この24日におこなわれてしまったが、「全国学力テストは児童生徒と公教育にとって有害である」との結論に達し、これに不参加を決めた犬山市教育委員会の論点を学ぶために、犬山市教育委員会編の「全国学力テスト、参加しません。」を購入し、早速読んでみた。
一言でいえば、競争原理・市場原理にもとづいた新自由主義的教育「改革」、それは、学校選択・学校バウチャー制度・全国学力テストの「三点セット」による教育破壊政策なのだが、これに抗して、犬山市教育委員会が打ち出しているのは、本当の意味での教育とは何か、真の意味での教育改革を犬山市が真剣に模索しているということが理解できた。
その点で、本書を全国民に推薦したい。
この本を通じて私が学んだことはたくさんあるけれど、そのうちのいくつかを紹介しておこう。
第一に、教育とは、「「人格の完成」という理想のもとにいとなまれる壮大な活動」であるということである。すなわち、「国家戦略としての教育」ではなく、「人格の完成」をめざす教育である。犬山市は、この教育の原点に立っている。
第二に、生徒の「学ぶ喜び」が何よりも大切であるということである。「犬山の教育改革は、私が子どもであったとして、また教師であったとして、「通いたい学校」を追い求めることで、学校を教師自らの手で内側から変えてゆく自己改革です」ということだそうだが、競争原理や序列化で、教育や学校はよくならない。市場原理の導入は、学校づくりの原理とは根本的に違うのである。教育では、子どもの内発性を重視しなければならない。生徒みずから学ぶ力を育むことが大切なのである。
犬山では少人数教育がすすんでいるが、安易にこれをきめの細かい教育とだけ考えてはいけない。犬山では、「子どもがじっくりと自分自身で考える時間を取り、その間教師は安易に教えない。子ども同士の学び合いをとおして、個に応じた学習参加を図り、個に応じた理解を促す」という。「協同による学習」を大事にしたいがために、犬山では少人数教育を推進しているのである。これは教育の本質にかなっている。これからの教育は、「子どもどうしの学びあいを大切にする」ことが中心にすわっていないといけない。個々の教員でこれをやっていることはあるけれど、犬山のように組織的に取り組んでいる地域は少ない。犬山は一つの学ぶべきモデルである。
第三に、生徒の「学ぶ喜び」は教師の「教える喜び」と表裏一体のものである。「犬山では、教師自身の自己評価や「同僚性」にもとづく相互評価などにより、日々の授業改善の積み重ねによって教師の資質・能力の向上をめざしています」とあるように、「教師の役割は質の高い授業を提供すること」、これが「学校経営の基本にすえられていなければならない」。教師とは本来、子どものためには研鑽を厭わないものである。したがって、「教育現場に責任と権限を与えることで、教育現場がその権限を行使して、自分の心ゆくまでの授業をつくり上げること」。「それが教師として教える喜びの原点」であるからだ。犬山が取り組んでいる副読本の作成など、きめの細かい教育は現場でしかできないものである。
第四に、以上のような地域の教育を支えるための行政でなくてはならないという点だ。「地方分権・現場主義の教育改革」が求められるゆえんである。国や地方行政は、「学びの授業」に欠かせない少人数学級実現などの条件整備につとめるべきなのだ。
その他、この本から学ぶべき点はいろいろあるけれど、この辺でやめておく。
「教育はやり直しが利かないだけに安易な市場原理の導入に抵抗するだけの見識と気概が強く望まれます」とあるが、いま私たちに必要なものは、この「見識と気概」、そして勇気だろう。
イギリスなどで破綻している全国学力テスト導入は、反教育的政策である。本書が喝破しているように、国の判断が常に正しいとは限らない。教育は、「教育の地方自治」の実践が重要である。「犬山の子は犬山で育てる」という徹底した現場を尊重する現場主義を今こそ学ぶべきだ。
こうした犬山の教育改革がすすめられてから9年目になるという。
全国から犬山の教育を学ぼうと視察団が来ているというが、当然だろう。
「私たちは、教育委員会として当然やるべきことをやっているというほどの意味で、改革という意識はまったくありません。義務教育として守るべきぎりぎりのことを追い求めたにすぎません。犬山の教育改革が世の中に一石を投じるとすれば、当然やるべきことを世の中がやっていないということの証にすぎません」との指摘があったが、これも的を得ている指摘と言わねばならない。
全国学力テスト導入によって、「人格形成よりもテストの得点力を高める教育」が優先するようになること、それは反教育の横行を意味するが、そのことを一教員である私も深く憂えるものである。そうならないためにこそ、本書を全ての人々に推薦したい。