井上ひさしさん作の「きらめく星座 −昭和オデオン堂物語―」を観た

きらめく星座

 「きらめく星座」をはじめて観た。井上ひさしさんによって書かれた素晴らしい作品だった。戯曲としてよくできている。力のこもった井上作品の一本だと思う。
 昭和15年、浅草の小さなレコード店「オデオン堂」を舞台に、そこに集う人々を描くことを通じて、あの戦争を描いているのだが、ともすれば悲惨になりがちなこの時代を背景に、庶民の生き様が、愛と笑いの中で描かれていく。圧巻なのは、舞台の最後の方で、矛盾の中を生きざるをえない、人間の「奇跡」にかけるしかない人間の葛藤が描かれていくことだ。
 井上作品の芸風で思い出すことは、子どもの頃にみた「ひょっこりひょうたん島」。自分の青春時代に読んだユーモア小説「モッキンポット師の後始末」。いわばシンプルなカリカチュアの世界だ。井上ひさしさんが世界や日本の重要な歴史的課題を扱ったとしても、そうした芸風は生きているように思う。とすれば、そうした戯画や風刺画的芸風で、きちんとリアリズムが描けるのか。それがひとつの評価の視点になるような気がしているが、今回の戯曲、そしてそれを具体化した舞台は見事と言わざるえないほどの出来栄えだったと思う。
 舞台は、休憩時間15分をはさんで、3時間くらいの上演時間だろうか。あの昭和の時代が井上ひさしワールドとしての芸風で、それもミュージカル仕立てできっちりと描かれていたから、時間はあっという間に過ぎてしまった。
 今回は、唄もテーマになっているから、単純なようでいて、幾重にも、さまざまな要素がタペストリーのように織り込まれている、たいへん難しい舞台で、これまで観た井上ひさし作品の舞台の中で、一番多かったくらい、役者さんの台詞のとちりも少なくなかった。けれども、役者陣としては、傷痍軍人を演じた高杉源次郎役の相島一之さんが素晴らしい演技であり、力演されていた。矛盾の中を生きる人間の葛藤が、失われた右手の痛みとともに、日本人の抱える歴史課題として、十二分に伝わってきた。アンコールでスタンディングオーベーションをしたいくらいの舞台だった。
 小笠原信吉役と小笠原ふじ役の久保酎吉さんと愛華みれさんも、夫婦役として好演していた。庶民の、家族の、愛情あふれる人間関係が土台となっているのは、やはり救いだ。
 市川春代さんの「青空」を聞かせて下さいと、出世前の二人の青年が、少しだけ登場するのだが、最後まで彼らの印象が残るほど、存在感が感じられた。
 こまつ座ホリプロ公演。