初めて「福翁自伝」を読んだ

福翁自伝

 初めて「新訂 福翁自伝 (岩波文庫)」を読んでみたが、たいへん面白く読んだ。
 言うまでもなく、福澤は幕末から明治にかけて生きた啓蒙思想家と言われている。アメリカ合州国を二度、ヨーロッパも含めて海外を見聞し、洋書・原書をたくさん読んで洋学をおさめた。封建社会の身分制に不快感を示し、文明開化を信奉し、おそらく近代的な文明の進歩を信じていた人だったろう。
 自伝として名著なのかどうかはわからないが*1、それにしても長い自伝だった。
 福澤諭吉は慎重居士で*2政治とは一歩離れた人生を歩んだ人だが*3、同時におそらく福澤はサービス精神旺盛の人で、語りたいことのたくさんある人だった印象がある。蘭学から英学に切り換えたほど機を見るに敏で、実学主義だった福澤は、数々の人生教訓も残している。その生き方・考え方・暮らしぶりは、良くも悪くも、近代合理主義のそれで、現代人につながる都会的なものだ。
 内容的な重複も含めて、やたら長い自伝だったが、その分、近代史を探るうえで、貴重な資料ともなっているのだろう。
 福澤諭吉に関していえば、学生時代より気になっていることがひとつある。それは福澤のアジアに対するまなざしであり、それは日本の近代がもつ弱点にもつながっているのではないかという疑問であるが、もともとその答えを私自身持ち合わせてはいないけれど、「福翁自伝」を読んでその答えが明確にもてたわけでもない。ただ、私自身、原典にあたることが少ない浅い学びであったから、初めて読んだ「福翁自伝」は予想以上に面白く読むことができた。
 たくさん感想もあるけれど、感想は明日以降にしよう。

*1:自叙伝としては、河上肇のものと同様に、「福翁自伝」は有名。

*2:攘夷派は、海外の文明を積極的に紹介した福澤諭吉をこころよく思っていなかったから、福沢が最も恐れたことは「暗殺の心配」だった。若いころ福澤は居合抜きの覚えもあったようだが、福澤は刀を捨て近代的な情報で武装したと言えるのだろう。

*3:「年譜」をみると、45歳から47歳まで東京府会議員を務めている。