歴史家・色川大吉さんのお母さん

 朝日新聞の夕刊で連載中の「人生の贈りもの」。
 今回は、歴史家・色川大吉さん。
 以下、朝日新聞から。
 

 家業はかなり大きな運送業でしたが、おやじは一人娘に婿に来たので、夫婦げんかをすると追い出されるのはおやじの方。そういう家父長制の弱い家柄だたために、女は男に従属すべきだという観念を植え付けられずに済みました。
 母は小児まひで生まれつき右半身が不自由でした。そのためでしょう、人によって差をつけることを許さなかった。出入りの中国人の呉服屋さんがいたのですが、その人をもてなす態度は立派なものでしたね。

 ――もう日中戦争が始まっていた頃ですね。

 そうです。中国人の蔑称である「チャンコロ」なんて言おうものなら、ぶっ飛ばされた。両親の影響は一生の財産です。女性差別、人種差別の意識を持たずにすんだ。母からは、目に見えている丸ごとのその人を見ることを教えられました。