「(京ものがたり)高倉健のコーヒーブレーク 孤高のスター、語り役になる指定席」

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 亡くなられた映画俳優・高倉健さんはコーヒー好きで知られる。
 日本各地を訪れる先に、なじみの珈琲店がいくつもあったという。
 そのひとつが、京都の「イノダ」。

 以下、朝日新聞(2015年4月28日16時30分)から。

 その後、猪田が接客した三条支店に、多いときは一日に朝晩2回通った。店の顔でもある楕円(だえん)カウンターを好み、昼は、光がさす窓側中央、夜は、柱が目隠しになる入り口側の真ん中が定位置だった。

 モカを基調にした同店オリジナルブレンド「アラビアの真珠」を、砂糖無し、ミルクたっぷりで。うんちくは語らない。一口飲んでギョロッと目を見開き、満足そうに「おいしいです」とひと言。

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 寡黙な役柄が多かった高倉だが、一緒にコーヒーを飲んだ人たちは皆、「よく話をされました」と振り返る。猪田の前でも、朝は無口に新聞を読んでいたが、夜は、おかわりを重ねて、旅した欧州の思い出などを生き生きと語った。

 「冗舌さの根底にあるのは、秘めた孤独感でしょう」と、30年にわたって高倉を取材した出版プロデューサーの谷充代(61)。孤独と、個の時間を知るからこそ、心を許す人や、好きな空間に浸るときは、言葉がほとばしるのだとみる。


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 常に精進し、高みを目指す高倉を、共演した田中邦衛(82)は「峻烈(しゅんれつ)な山」にたとえた。二十数年前、それをどう思うのかと、谷が高倉に尋ねると、熟考の末、「人は誰でも幸せになるために必死にもだえているんじゃないでしょうか。きれいごとではない。修羅場です。でも確実に幸せに向かっている。そう信じたいんです」と答えた。