「(政治断簡)おごる首相がつかんだ「コツ」 世論調査部長・前田直人」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2017年5月15日05時00分)より。

 大型連休のさなか、安倍晋三首相がぶちあげた憲法改正提案には正直、驚いた。目標は2020年の施行。9条の戦争放棄や戦力不保持の条項を残したまま、自衛隊の存在を明記するという。

 現行9条に自衛隊を加える「加憲」の考え方はかねて、公明や民進にもある。そうか。ついに民進も含む合意形成へ腰をすえる大戦略に転換か――と思ったのだが、どうやら早合点だったようだ。

 連休明けの8日の衆院予算委員会の集中審議は、首相と民進の大ゲンカ。質問に立った民進長妻昭氏に感想を聞くと、おかんむりだった。

 「もはや皇帝気取り。常軌を逸していますよ。何でも『俺が言えばできるんだ』と過信しているんでしょうね」

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 怒りの発端は、首相の「自民党総裁としての考え方は、相当詳しく読売新聞に書いてある。ぜひ熟読して頂いてもいい」という答弁である。

 「憲法改正20年施行目標 首相インタビュー」との見出しが躍った5月3日付の読売新聞の詳報ぐらい、すでに熟読している。首相は、首相と党総裁の立場を使い分けて、国会での具体的な説明を求める長妻氏の問いにまともに答えようとしなかった。

 9日の参院予算委でも民進蓮舫代表の追及に「この場で自民党総裁として一政党の考えを披瀝(ひれき)すべきではない」と言ったかと思えば、「我々自民党は結果を出してきた」と党を代表してアピール。一方で、いつも政権に協力的な維新には丁寧に話した。

 荒廃する国会。長年、安倍氏と対決してきた長妻氏によれば、「最近、首相は変なコツをつかんだ」そうだ。

 いわく、(1)質問に答えずにはぐらかす(2)ヤジに反応する(3)ヤジに対して長々と反論をして時間をかせぐ(4)「だから民進の支持率は上がらない」という民進批判に切り替える、という流れで追及から逃げ切る「コツ」。これでは議論が深まるはずもない。

 「それが日に日に増長して、天まで届くような状況になってきた。『何を言っても、支持率は絶対に下がらないんだ』という迷信のような確信があるのでしょう。それは、我々の責任です」

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 民進たたきで悦に入る首相を「増長」させているのは、安定した内閣支持率らしい。首相は4月の国会審議でもNHKの世論調査を引いて、「内閣支持率は53%。自民、民進の支持率はご承知の通り」と民進を皮肉った。

 慢心、ここにきわまれり。

 世論調査の役割は、権力者に信任を与えて増長させることではない。さまざまな政治・政策課題に対する「声なき声」を浮き彫りにし、政治の足らざるを補うためのヒントを読み取ることにある。それは本来、民主主義を豊かにするためのツールのはずだ。

 なのに首相は森友学園問題の真相解明や原発政策の見直しを求める多くの世論からは目をそむけ、好都合な数字のみにおごり、弱る野党をあざ笑う。「安倍1強」がきわまり、まるで独裁者のような首相のふるまいをみるにつけ、やせ細る民主主義への危機感が、ひたすら募る。