「クローズアップ2017「加計」苦しさ増す政権 首相側近発言の新文書」

 少し前の報道になるが、以下、毎日新聞デジタル版(毎日新聞2017年6月21日 東京朝刊)より。

 学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設を巡る問題は、萩生田光一官房副長官が早期開学を文部科学省に迫ったとする新文書が発覚し、政権中枢を直撃した。萩生田氏は関与を強く否定したが、国会閉会で火消しを狙った安倍晋三首相の計算は大きく狂った。文書は首相側近の萩生田氏が首相の意向を伝えたと記され、これまでの文書と次元の異なる衝撃的な内容。政府の説明は苦しさを増し、対応は後手に回っている。

 「(文科官僚が)一部で萩生田氏の名前を出して事に当たる傾向があったのではないかと肌で感じ、『ご迷惑をおかけした』と申し上げた」。20日夕、首相官邸で萩生田氏と面会した義家弘介文科相は、記者団にこう語った。教育行政に影響力のある萩生田氏の名を、官僚が勝手に持ち出したという見方をちらつかせたものだ。萩生田氏も書面のコメントで「私の名前が(文科)省内の調整のために使われているとすれば、極めて遺憾だ」と「潔白」をアピールした。

 首相は19日の記者会見で世論の批判を意識して「真摯(しんし)に説明責任を果たす」と低姿勢を示しつつ、獣医学部新設の正当性を訴えたばかり。安全保障関連法制定を乗り切った経験を持つ政府・与党は「急落した内閣支持率も、ほとぼりが冷めれば回復するはず」とたかをくくっていた。

 ところがその翌日にまた新たな文書が発覚し、「V字回復」の楽観論は吹き飛んだ。迫る東京都議選(23日告示、7月2日投開票)への悪影響を懸念する声も強まる。なぜ文科省で次々に新文書が出てくるのかと問われ、菅義偉官房長官は「私が聞きたい」といらだちを隠さなかった。

 文科省の文書では、これまでも萩生田氏の名前が取りざたされた。同省は15日に発表した再調査結果で、萩生田氏が省庁の調整をしていたという文書は「存在が確認できない」とした。だが同時に、萩生田氏が獣医学部の新設要件を「広域的に」「限る」と修正するよう指示した、という電子メールを公表。今回の文書はこれに次ぐものだ。

 首相にとって、萩生田氏は八王子市議時代から北朝鮮拉致問題を通じて共鳴した盟友。総裁特別補佐も務めた側近の一人を、政府はこれまで一貫して擁護してきた。山本幸三地方創生担当相は16日の参院予算委員会で、新設要件を修正したのは自分だと説明。メールは「文科省から内閣府へ出向中の職員が本省へご注進した」と責任転嫁した。萩生田氏も予算委で指示を否定している。

 だが今回の文書は、萩生田氏が加計学園の特区認定を「官邸は絶対やる」「総理は平成30(2018)年4月開学とおしりを切っている」と発言したと記述している。首相側近がまさに「総理のご意向」を振りかざして圧力をかけた、という印象を世論に与えるだけでなく、この「疑惑」が政権を揺るがす事態に発展しかねない内容だ。

 ただ松野博一文科相は、文書の日付当日に萩生田氏と文科省幹部が面会していたことを認めた。政府の主張は、文書という「物証」を打ち消すだけの説得力を欠いたままだ。

 首相は20日、自民党役員会で「『築城3年、落城1日』という言葉もある。気を引き締めてやっていく」と厳しい表情で語った。しかし菅氏は、首相が改めて記者会見を開く考えは「ない」と明言。松野文科相や山本担当相が説明すれば足りるとするなど、首相が言う「真摯な説明責任」の姿勢からはほど遠い。

 特区に申請した親友の学園理事長とゴルフや会食を楽しんでいた首相の「脇の甘さ」に、改めて批判も上がった。与党幹部は「安倍さんの身から出たサビ。世論を甘く見て放置すれば、悪い印象が増していく」と危機感をあらわにした。【高山祐、水脇友輔】

文科省、記録より記憶 政治に配慮、メモ軽視

 「間接情報や周辺情報を織り交ぜた個人の備忘録」。文科省の義本博司総括審議官は20日の記者会見で、省内で作成された文書の信頼性をおとしめるような言葉を繰り返した。だが、その根拠の中心に据えたのは萩生田氏へのヒアリングでしかない。一方で霞が関ではこうした「個人メモ」は日常的に作成されており、その内容の正確性を指摘する声は多い。文科省が「記録より記憶」を重視する姿勢に、他省庁からは疑問の声が相次いでいる。

 「『言った』『言わない』になると困るので、政治家からの指示は必ず文書に残す。文書を(他の職員と)共有しているのなら、別の情報を入れて作ることは通常やらない」。ある官庁の中堅職員は指摘する。

 総務省OBの一人も「役人は余計な言葉を削り、シンプルで正確な文書を作成する訓練をしている。間違いがあれば、上司が細かく直す」と自身の経験を振り返る。文科省によると、萩生田氏と面会した常盤豊高等教育局長は、ヒアリングに「課長補佐から文書の確認はなかった」と話しているとされるが、このOBは「通常は局長の了解を取るはず」と疑問を呈した。

 会見で義本氏は、萩生田氏が自身の発言として明確に否定した内容として、(1)四国での獣医学部設置について、他と差別化できる3点の内容(2)「総理が『平成30年4月開学』とおしりを切っていた」(3)「加計学園の事務局長を(専門教育課)課長のところにいかせる」−−の三つを挙げた。

 いずれも首相の関与や加計学園を事業者の前提にしていたことをうかがわせる記載となっており、文科省としても3点の内容を「不正確」と認めて萩生田氏の反論を受け入れた。「事実を抑えようとすれば職員の反発を招く。一方で、官邸にも配慮しなければならない」。ある文科省幹部は苦しい胸の内を語った。

 旧自治省出身で元総務相片山善博・早稲田大公共経営大学院教授(政治学)は「職員が作ったメモを『臆測』などと言えば、組織に対する職員の信頼は失われる。文書が『不正確』との説明は単なるつじつま合わせだと思う」と批判。「この問題はどんどん悪い方向に進んでいる。文科相は官邸に気を使うことをやめ、何があったかをきちんと世の中に知らせるべきだ」と断じた。【杉本修作、三股智子】