「「こんな人たち」発言、敵味方を峻別 首相演説が波紋」

amamu2017-07-06


 以下、朝日新聞デジタル版(2017年7月6日05時02分)から。

 「こんな人たちに負けるわけにはいかない――」。安倍晋三首相が東京都議選の応援演説で、自らを激しく批判していた人たちを前に発した一言が波紋を広げている。多様な世論に耳を傾け、意見をまとめ上げる立場の最高権力者が、有権者を敵と味方に分けるかのような発言。「丁寧に説明する」と強調していた首相の言葉はどこへ行ったのか。(岡戸佑樹、仲村和代、田玉恵美)


首相演説に「辞めろ」「帰れ」の声 都議選で初の街頭に


 安倍首相の発言は、都議選の投開票日前日の1日夕、東京・秋葉原の街頭で行われた自民候補の応援演説の場で出た。秋葉原は首相が国政選挙の演説の締めくくりに選ぶ「聖地」だが、都議選で初の街頭演説となった首相の演説の最中、聴衆の一部から「帰れ」「やめろ」コールがわき起こった。

 すると首相は、連呼している人たちの方向を指さし、「憎悪からは何も生まれない。こんな人たちに負けるわけにはいかない」などと反論した。

 首相が指さした聴衆は、首相らが乗った選挙カーの向かいで、日の丸を振る自民支援者らに取り囲まれるように陣取っていた。「安倍やめろ」と書かれた横断幕を広げたり、安倍政権を批判する言葉が書かれたプラカードを掲げたりもしていた。ツイッターなどで参加を呼びかける動きがあったという。通りがかりの人の中にも、一緒に「やめろ」などと声を合わせる人もいた。

 基本的に「やめろ」コールが起きている最中でも、マイクを通して首相の声を聞き取ることができたが、抗議している人たちの近くでは、聞きづらかった可能性はある。

 菅義偉官房長官は3日の記者会見で「(首相の発言は)極めて常識的な発言じゃないですか」。4日の会見でも「総理が選挙で政策を訴えようとしている時に、妨害的行為があったことは事実じゃないか」と話し、首相の発言は問題ないとの認識を示した。


■対照的なオバマ前大統領


 「国家のかじ取りをつかさどる重責を改めてお引き受けするからには、丁寧な対話を心がけながら、真摯(しんし)に国政運営に当たっていくことを誓います」。安倍首相は民主党から政権を奪い返した直後の国会でこう語っていた。また、6月30日の東京都内での演説でも「売り言葉に買い言葉、私の姿勢にも問題があった。深く反省している」と述べたばかりだった。それなのに、反対派とはいえ、有権者に対し、「こんな人たち」という言葉を向けた。

 自民党の歴代首相を間近で見てきた元党副総裁の山崎拓さんは「歴代首相は感情をいちいち表に出さず、もっと泰然自若としていた」。「ヤジを飛ばしているのは小さな反対勢力だと錯覚し、その後ろにある民意の大きな山が見えていないのではないか」とみる。
 2000年から共産党委員長としてときの首相と論争してきた志位和夫委員長も5日、記者団に「少しでも批判をしたり、反対したりする者は敵だと峻別(しゅんべつ)する態度。この傲慢(ごうまん)さに都議選で審判が下った。首相はそれを全く理解していない」と語った。

 「首相が自ら招いた事態でもある」と指摘するのは山崎望・駒沢大教授(政治理論)だ。「国会で自らヤジを飛ばす首相を筆頭に、安倍政権は加計学園などさまざまな問題で丁寧な説明をしてこなかった。秋葉原で起きたことは、有権者があのような場でなければ、政権に抵抗が不可能な状況に追いやられている現実を象徴しているのではないか」

 菅官房長官が「妨害的行為」と非難した「やめろ」コールについても、旧自治省選挙部長を務めた片木淳・早大教授(選挙制度論)は「遠くからヤジを飛ばしただけで、演説が続行不可能になったわけでもない。公職選挙法に定める選挙の自由妨害には当たらない」とみる。

 安倍首相と対照的なのは、前のオバマ米大統領だ。在任中の昨年11月、大統領選の民主党候補のクリントン氏の集会で、共和党のトランプ氏の支持者が演説を邪魔し、民主党支持者からブーイングを浴びた。すると、オバマ氏は支持者にこう呼びかけた。

 「みんな静かに。私は真剣だ」

 「私たちは言論の自由を尊重する国に生きている」

 「ブーイングをやめよう、投票しよう」


■安倍首相の発言をめぐる菅義偉官房長官の記者会見での主なやりとり(3日)


Q:秋葉原での「このような人々に負けるわけにはいかない」という首相の発言。主権者が説明責任を果たしていない、と抗議しているのに対する発言として、政府としてどのように受けとめているか

菅氏:政府として発言するような問題ではないと思います。

Q:有権者をある意味、軽視している発言にも思えるが、発言自体に問題あると思いませんか

菅氏:まったくあると思いません。

Q:その理由は

菅氏:ないからです。発言は自由です。

Q:秋葉原での、かなりのああいう抗議の声が出てくることは見ていて衝撃的だった。政府として、ああした声が出てくることを重く受け止めているのか。

菅氏:失礼ですが、あなたの主観に答えることは控えたいと思います。客観的なことについて、事実に基づいて質問して頂きたいと思います。

Q:では、秋葉原での声をどう受け止められたか。ああした声が出てくることは、国民への政権への怒りの声だという認識はどうか

菅氏:ですから、あなたの主観ですから。当然これ、民主主義国家ですから、選挙運動というのは自由です。

Q:「総理の発言は自由」とは

菅氏:選挙応援は自由じゃないですか。当然そうでしょう。民主主義国家ですから。

Q:どんな発言をしてもよいと。

菅氏:それは民主主義国家ですから。そこの許容の範囲というのはあるでしょうし、総理はきわめて常識的な発言じゃないですか。それこそ、そうした発言を縛ること自体ありえないと思いますよ。

Q:「このような人には負けない」というのは、民主主義国家だから常識的だという理解か。

菅氏:ひとの発言を妨害するようなことだったんじゃないですか。ですから、総理としてはそういう発言をされたんだろうと思いますよ。ですから、そういう人たちを含めて、日本は民主国家ですから。そういう中で発言をしたわけです。

Q:総理発言を問題とは思っていないという認識か。

菅氏:まったく思っていません。