「前理財局長 「ゼロ回答」で栄転 禍根残す人事?」

 以下、毎日新聞デジタル版(2017年7月22日 18時37分(最終更新 7月22日 21時20分))より。

 学校法人「森友学園」への国有地格安払い下げ問題で財務省理財局長として国会答弁に立ち続けた佐川宣寿(のぶひさ)氏(59)が、今月5日付で国税庁長官に就任して2週間あまり。野党の追及に徹底した「ゼロ回答」で臨んだ功で栄転した−−と国民から疑問の声が上がっている。実態はどうなのか。【福永方人】

 就任を受けて毎日新聞11日朝刊に神戸市の男性(61)の投稿が載った。「拝啓 国税庁長官様」で始まる。

 「私も納税者の一人です。税務調査の際に『関係書類は紛失しましたが、適切に処理しているので経費の計上を認めてください』と申し上げる場合もあります」「国会で何の証拠も示さずに自らの主張を押し通されたのですから、このお願いはよく理解していただけると思います」。皮肉たっぷりに佐川氏の答弁を批判している。

 実際、森友問題で佐川氏の答弁は「記録は破棄した」「データはない」「政治家の関与はない」と“ないないづくし”だった。

 自民党鴻池祥肇(よしただ)元防災担当相らの関与を示す文書が出てきても、政治の介入を否定し続けた。4月3日には行政文書について「短期間で自動的に消去されるシステム」と答弁。どんなシステムなのかと大騒ぎになり、4日後に国会で理財局次長が「自動消去機能というのは基本的にございません」「消去は職員がパソコンを操作して行う」と、佐川氏の答弁を事実上修正した。

 国民の財産をただ同然で売ったと批判される財務省の幹部が、税金徴収のトップに就いたことに、人々は怒っている。

    ◇

 今回の長官人事を論功行賞と見るのは勘ぐりすぎかもしれない。佐川氏以前に3代続けて理財局長が長官に就いた。佐川氏は過去にナンバー2の国税庁次長も務め、既定路線との見方が強い。だが、麻生太郎財務相は長官人事を「(佐川氏は国会で)丁寧な説明に努めてきた。適材だ」と評し、国民の怒りを買った。

 国税当局の若手職員は「長官が自ら税務調査をするわけではない。粛々と法律通りやる」と業務への影響を否定する一方、「これまで痴漢や横領など職員の不祥事が報じられるたびに税務調査の相手から嫌みを言われてきた。今回は『財務省も書類を保存していないだろ』とかみつかれるかもしれない」とため息交じりに言う。

 森友学園籠池泰典前理事長と財務省幹部の交渉時の音声記録を入手するなどこの問題の取材で注目された著述家の菅野完(すがの・たもつ)氏が、笑いながら言った。「最近、税理士との打ち合わせで『僕も財務省のように、領収書や入金伝票を捨てていいですよね』と冗談で言ったら、『みなさん、そうおっしゃる』と返されました」

 菅野氏は佐川氏を、森友学園問題の真相究明を阻んだキーマンだと見ている。「私にでさえ見つけられた資料を財務省が見つけられないわけがない。データは自動的に消去されるなどと、子供でも分かるような見えすいたうそを国会の答弁で重ねた人が栄転するのはモラルハザード。長く禍根を残す人事だ」

 新長官は着任後に記者会見するのが通例だが、佐川氏の会見はまだ開かれていない。