「失言連発・側近重用… 「1強」安倍内閣この1年」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2017年8月1日05時02分)から。

 「1強」を背景にした強硬な政権運営が批判を浴びた第3次安倍再改造内閣。昨年8月の発足以降、閣僚が問題発言を繰り返し、政権に不都合な証言などには向き合わない姿勢が際だった。

 「皆さんに会えて本当に良かった」。稲田朋美前防衛相は31日、離任式を終えると笑顔で手を振りながら防衛省を後にした。

 稲田氏は防衛相に就任以降、資質が問われる言動を再三繰り返した。昨秋の国会審議では、かつて核保有の検討を主張したことについて政府見解との整合性を追及された。昨年末には「忘恩の徒になりたくない」と靖国神社に参拝。外交・安全保障を担う現職閣僚の参拝は異例で、周辺国から批判を浴びた。

 最後は南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題をめぐる混乱を統率できず、自らが組織的な隠蔽(いんぺい)に関与したのではないかとの疑惑を残したまま内閣改造を待たずに辞任に追い込まれた。防衛省内では「自己防衛大臣」と揶揄(やゆ)された。

 山本幸三・地方創生相は、明確な根拠を示さないまま責任を第三者に押しつけるような発言が続いた。加計学園の問題をめぐる国会審議で、文部科学省が公表したメールについて「陰で隠れて本省の方にご注進したようなメールだ。事実を確認して出したメールではない」と述べ、後に「言い過ぎた」と謝罪。文化財観光の振興をめぐり「一番のがんは学芸員。この連中を一掃しないと」などと述べ、発言を撤回した。

 自らの担当分野で暴言や問題発言も続いた。今村雅弘前復興相は4月、東日本大震災について「これは、まだ東北で、あっちの方だったから良かった」と述べ、辞任に追い込まれた。鶴保庸介沖縄北方相は、沖縄県東村の米軍ヘリパッド建設現場で大阪府警の機動隊員が抗議活動をしている人に「ぼけ、土人」と発言した問題で、容認できないとしながら「差別であるとは個人的に断定できない」と繰り返した。

 山本有二農林水産相は昨年10月中旬、環太平洋経済連携協定(TPP)承認案の国会審議のさなか、佐藤勉衆院議院運営委員長のパーティーで「強行採決するかどうかはこの佐藤勉さんが決める」と発言。野党から「おごりだ」と批判され謝罪した。だが、その半月後の11月初旬の会合で「こないだ冗談言ったら、クビになりそうになりまして……」とあいさつした。

■「お友達か、イエスマンか…」

 なぜ失言や暴言が続発するのか。

 「今までの人事を見ていると仲の良い友達か、同じような考え方の持ち主か、総理にイエスという人か。そういう範疇(はんちゅう)で選ぶ。自民党の政治の幅を狭くしすぎた」。村上誠一郎・元行革相は7月下旬のTBSの番組でそう指摘した。鴨下一郎環境相も「首相は抜擢(ばってき)した人は責任をもって育てる良い面があるが、人事は国益にかなうかどうか冷酷であるべきだ」と語る。

 2012年末に政権復帰してから、安倍晋三首相は麻生太郎副総理兼財務相菅義偉官房長官岸田文雄外相の「骨格」を維持。稲田氏や下村博文自民党幹事長代行、萩生田(はぎうだ)光一官房副長官ら側近を政府や党の要職で起用し続けてきた。

 一方で、自らが強くこだわる要職以外は派閥が当選回数などを理由に推薦してきた議員にポストをあてがう人事も目立つ。「側近」と「派閥順送り」の組み合わせが、結果として「多様性」や「適材適所」を阻んできた――与党内からはそんな指摘が出ている。

 次の組閣方針には「きちんと仕事をする『仕事師内閣』にする」(首相官邸幹部)との声が上がる。だが、ある閣僚経験者は求心力が低下する中での人事の難しさをこう話す。「党内の不満を解消できなければ、組閣後に首相批判が噴き出すだろう」