「(天声人語)白人至上主義に揺れる」

amamu2017-08-20


 以下、朝日新聞デジタル版(2017年8月20日05時00分)から。

 アメリカ映画で最もヒーローらしいヒーローは誰か。10年余り前、ハリウッド関係者1500人が票を投じたことがある。インディ・ジョーンズジェームズ・ボンドを抑えて1位になったのが、「アラバマ物語」の主人公フィンチ弁護士だ▼映画の舞台は人種差別が激しい1930年代の南部。白人女性を乱暴した容疑で逮捕された黒人青年の裁判が進む。グレゴリー・ペック演じる弁護士は黒人の側に立ち、無実を立証していく。「黒人の手先!」との非難を浴びながら▼60年代に公開された映画が人びとの記憶に鮮明なのは、人種差別がいまも澱(おり)のように残るからだろう。時折噴きだし社会を揺るがす。白人至上主義の団体と反対派が衝突し、その余波が続いている▼火に油を注いだのがトランプ大統領の「両者に非がある」との発言だった。どっちもどっちという姿勢の先にあるのは、差別の容認である。苦しみながらも人種差別に立ち向かってきた歴史への裏切りでもあろう▼もともと排外主義的な大統領の姿勢が、白人至上主義を勢いづかせた面もある。トランプ流の本音トークが、米社会の根幹を揺るがしている。議会、経済界そして軍からも批判が出た▼映画の投票は悪役部門もあり「スター・ウォーズ」のダース・ベイダーが3位になった。一昨日政権を追われたのは、自らをベイダーに例えた側近バノン氏である。排外主義の黒幕が去り、変化が出るのか。それにしてもすでにまき散らされた害毒の何と強いことか。