「安倍首相 会見の「国難突破解散」 国難は「ボク難」?」

 以下、毎日新聞(2017年9月27日 21時36分(最終更新 9月28日 08時39分))より。

 その言葉に驚いた人も多かっただろう。安倍晋三首相が25日の記者会見で口にした「国難突破解散」。大義なし、自己都合という世間の衆院解散への批判に、少子高齢化北朝鮮の二つの問題を挙げ反論したかに見える。いずれも深刻な問題だが、それが本当の解散理由なのか。【福永方人、小国綾子】

 実際、この表現に違和感を抱く有権者は少なくなかったようだ。首相の会見直後、ツイッター上に「おまえが国難」という言葉があふれ、拡散数の多いキーワードを集めた「トレンド」に入った。

 この言葉に続けて生活実感や疑問をつづる投稿が相次いだ。

 <保険料の負担増えてるし、実質賃金下がってるし、食料品高くなったし、ぜんっぜんアベノミクスの果実なんて届きません>

 <5年も総理やってていまだ国難って、そりゃお前がポンコツだったってこと>

 過去には敗戦や東日本大震災が「国難」と表現された。一方、近現代史研究家の辻田真佐憲さんは「国難突破」の4文字に、国威発揚を狙う戦前の国民歌をまず想起したという。

 調べてみると大阪毎日新聞毎日新聞の前身)の懸賞募集で寄せられた詩に山田耕筰が曲をつけた1932年の「国難(こくなん)突破日本国民歌」だった。歌詞は<吼(ほ)えろ、嵐、恐れじ我等(われら)、見よ、天皇の燦(さん)たる御稜威(みいつ)(輝かしいご威光)……>

 「国難突破はそんな文脈で使われてきた経緯から、戦後はあまり使われなかった。あえて使った首相に戦前回帰との批判もあるが、もっと意図的だと思います」。辻田さんは首相の「人づくり革命」など「革命」という言葉にも注目する。「革命も国難突破も今はめったに使われず、インパクトや新鮮さが期待できる。特に『国難突破』は右寄りの支持者にも歓迎されると考えたのではないか」

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 朝鮮半島情勢を「国難」として解散の理由にするのはどうか。

 首相は会見で、情勢が緊迫して解散の判断に制約を受ける懸念を踏まえ「民主主義の原点である選挙が北朝鮮の脅かしで左右されてはならない」と力を込めた。だが、そもそも選挙をするのは安倍首相の判断で、それに北朝鮮が注文をつけたわけではない。北朝鮮は前からミサイル発射や核実験を続け、その意味で日本はずっと「国難」状態だ。

 旧防衛庁官房長や内閣官房副長官補を務めた柳沢協二さんは「北朝鮮への不安をあおり支持を高めたいのだろうが、戦争の具体的な前兆もなく日本を狙ってミサイルが発射される状況でもない」と指摘。圧力強化を目指す首相を「米朝の緊張緩和に向けて働きかけをすべきだ」と批判する。

 少子高齢化問題も同じ。「ずっと前から『国難』ですよ。それを今さら解散の言い訳にしようというのはまるで茶番です」と言うのは教育社会学者の本田由紀・東京大教授だ。「女性活躍や1億総活躍などスローガンだらけで、内実は『人手不足なので女も年寄りも働け』。『国難』は安倍政権5年間の的外れな政策の結果です」

 落語家で作家の立川談四楼さんも「国難」に「大げさで違和感を持った」と話す。「戦争が今まさに始まるかのような表現だ。記者会見で『北朝鮮が意図的に緊張をあおっている』と言ったが、意図的に国民の危機感をあおっているのは安倍さん自身でしょう」。そして森友、加計学園問題をそば料理に引っかけ、こう落とした。

 「やっぱり(首相)『おろし』につながる『もり・かけ』隠し。つまりは『ボク難突破解散』ですな」