「トランプ氏の寄付問題、ツイッターで取材を公開」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2017年10月13日19時30分)から。

新聞週間2017 ピュリツァー賞

 米ワシントン・ポスト記者のデービッド・ファレンソルド(39)は昨年、大統領候補だったドナルド・トランプの寄付をめぐる問題を調査報道で明らかにした。ツイッターを使った斬新な取材手法が注目を集めた。

 ファレンソルドがトランプの寄付について調べ始めたのは、ふとしたきっかけからだった。

 「大富豪」を自認するトランプは大統領選に立候補してからも、自分が慈善団体にいかに多額の寄付をしているかを自慢していた。1月にあった共和党の候補者討論会をすっぽかし、退役軍人向けのチャリティーイベントを開いた時は「100万ドルを寄付した」と豪語。支持者を前に、巨大な小切手を見せることもあった。しかし、どこに寄付しているのかは明かさず、陣営も「秘密だ」と言う。

 そこで、調査報道は始まった。毎日のようにツイッターを使うトランプにもわかるような形で、ツイッターを通じて退役軍人の団体に質問を出した。「いくつも団体があるなか、何とか情報を得たいという気持ちだった」と言う。

 トランプはあわてたのか、翌日、100万ドルを知人の慈善団体に寄付し、発表した。その後、自らファレンソルドに電話し、「お前は本当に嫌なやつだ」と文句を言ってきた。

 選挙期間中の寄付でさえごまかしていたのならば、その前はどうしていたのか。ファレンソルドは、トランプの過去の慈善活動についても調べ始めた。無数の団体に電話をかけ、一つひとつ確認していく、地道な作業。成功体験をいかし、取材結果を記したノートの写真をツイッターに投稿し続けた。

 調査報道を手がける場合、多くの記者は他のメディアや取材相手に手のうちが知られることを警戒し、なるべく目立たないようにする。しかし、ファレンソルドはあえてツイッターに公表した。「情報提供を呼びかける意図があった。読者の力がなければできない報道だった」

 300以上の団体に電話をかける過程で、トランプが自らのお金で、ほとんど寄付をしていないだけでなく、慈善活動に使っていた「トランプ財団」の運営のずさんさも浮かんだ。財団は、他人の寄付金を使い、トランプが被告の訴訟で和解金を支払ったり、トランプの肖像画を購入したりしていたのだ。いずれも、違法行為の可能性があった。

 5千人足らずから、6万人以上になったツイッターのフォロワーからの情報も貴重だった。肖像画は、フォロワーからの情報提供でトランプが経営するゴルフ場に飾られていたことがわかった。「偶然に見つけた手法を通じて、いかに読者が情報を持ち、取材に力をくれるのかを痛感した」と振り返る。

 10月には別の情報提供もあった。トランプが女性について、テレビ番組の収録前にひわいな表現で語った録音が残っているとの内容だ。報じると、ワシントン・ポストのサイトで過去最も読まれた記事となり、トランプも謝罪に追い込まれた。

 ファレンソルドは今年、優れたジャーナリズムを表彰するピュリツァー賞を受賞。「トランプ氏の慈善活動に疑義をかけながら、透明性のあるジャーナリズムのモデルを作り出した」と評価された。

 追いかけた相手は今、大統領だ。「取材手法は変わらない。今は、トランプのビジネスが、どのように職務に影響を与えているのか、調べている」(中井大助)