朝日新聞デジタル版(2017年11月16日16時30分)から。
「私は皆がいいっていう芝居をやったことはないわよ」
「皆が一様に面白いって言う劇はつまらないですよ。矛盾をはらみながらも批判を含めていろんな意見が出る劇の方が面白いんじゃないか」
年間10本以上の劇を手掛ける超多忙な演出家だ。本質を象徴的に見せる手法や、ウィットに富む演出に定評があり、哲学的で深遠な言葉は「鵜山語」とも言われる。
34歳の時、フランスの劇作家マリボー作「愛と偶然の戯れ」を上演後、文学座の大先輩の俳優、故杉村春子さんから初めて声をかけられた。「評判いいみたいじゃない」。
「でも、いろいろ言われるんです」と答えると、「私は皆がいいっていう芝居をやったことはないわよ」。
その後も度々、思い出す。万人を魅了する美人女優ではなかったが、芸の高みを目指した役者の本音があった。杉村さんは「女の一生」(森本薫作)を39歳だった第2次大戦中の1945年から、84歳の90年まで947回主演。最後まで主人公の16歳の娘時代も演じた。文学座の代表作だが、「古臭い」「いつまで続けるのか」「娘時代は違う女優にしたら」と批判も出たという。「嫉妬や色眼鏡も乗り越え、演じ続けた杉村さんと役の人生が重なりました」
万人受けを求めない姿勢は、自身の演出家人生にも重なる。(後略)