「(MONDAY解説)森友巡る決裁文書改ざん 公文書、問われる中身・管理」

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以下、朝日新聞デジタル版(2018年3月26日05時00分)から。

 ■NEWS

 公文書をめぐる不祥事が政権を揺るがせている。森友学園に関する決裁文書を改ざんしたり、加計(かけ)学園に関する「総理のご意向」文書や南スーダンに派遣された自衛隊の日報を「確認できない」と強弁したり。「民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」である公文書は今、どうなっているのか。

 ■隠す・作成しない…検証に壁

 3月19日の参院予算委員会森友学園に関する決裁文書が改ざんされた問題で大揺れに揺れる中、自民党青山繁晴議員がひときわ声を張り上げて政府を追及する場面があった。

 「影響なかったことを何の理由もなく書き込んだりされたら困るんです」

 森友学園に国有地を貸し付けるにあたっての特例処理を承認した決裁文書。その改ざん前の添付調書の1枚には「安部首相夫人」と記載されていた。

 「安倍昭恵の『倍(べ)』の字が間違っていたり、ほかの議員の名前も間違っていたり。したがって、契約に重大な影響があったという認識で記述したのではなく、『相手はタフでありました』という言い訳を並べてあるような調書だ」

 昭恵氏の夫である安倍晋三首相を前に、青山議員は、そんな独自の解釈を示し、「たかが省内の言い訳のため」として、そもそも記録に残したこと自体を問題視した。

 公文書をめぐる不祥事が問題になるたびに、「改ざんしないで済むように内容の薄い調書を作る」との方向で行政文書の形骸化が進む――。NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は議論の行方をそう心配する。

 加計学園獣医学部新設をめぐる文書をめぐっては、その取り扱いが不適切だったとして、昨年7月4日、松野博一文部科学相(当時)が戸谷(とだに)一夫・事務次官文科省幹部3人に口頭で厳重注意した。「本来、個人メモとして使用すべきものが共有ということになった」などと松野氏は説明した。

 つまり、加計学園獣医学部新設について「官邸の最高レベルが言っている」などと書かれたメモを省内で共有し、結果として行政文書にしてしまった管理を問題視しているかのようだ。

 これに対し、情報公開クリアリングハウスの三木理事長は「厳重注意は不当・不正」と松野氏に抗議した。「時の政権や行政機関に都合のよい記録しか残されない、きわめて恣意(しい)的かつ操作的な事態を生む」

 財務省文科省だけではない。そのほかにも複数の中央官庁で、作った文書を「保存期間1年未満」や「行政文書ではない個人メモ」の扱いにして隠蔽(いんぺい)したり、そもそも文書を作らなかったりする手法が横行している。

 2014年7月、政府は、集団的自衛権に関する憲法解釈を変更した。内閣法制局は、そのための内部協議の過程を行政文書に残していない。決裁文書は作成したが、そこには理由や経緯の記載は一切ない。政府の憲法解釈を担ってきた法制局だが、営々と築いてきた憲法9条の解釈を、理由もなく1日の検討で変更したとしか読み取れない文書になっている。

 11年4月施行の公文書管理法は「経緯も含めた意思決定に至る過程」などを「合理的に跡付け、又は検証することができる」ような文書作成とその適切な保存を行政機関職員に義務づけている。ところが、これが無視されているのだ。

 ■米国、不都合な部分も詳細に

 日本の実情と対照的なのが米政府の公文書管理だ。

 福島第一原発事故の際、米政府の原子力規制委員会は、会議での職員らの会話を録音し、翌12年、3千ページを超えるその書き起こしを公表した。それを読めば、80キロ圏内の米国民に避難を勧告することを決めた経緯が、規制委にとって不都合なことも含め詳細に分かる。日本政府の事故対処については、録音が一部しかなく、議事録もなく、重要な局面について関係者の記憶が食い違うなど、検証に限界がある。

 また、米国立公文書館や大統領図書館で、秘密指定を解除された過去の公文書を閲覧すると、日米の違いが著しい。

 米政府では、主要な政策決定の際に文書でその方向性を示し、それに対する意見を関係省庁から文書で集める。そのうえで、複数の選択肢ごとに良い点、悪い点を列挙した詳細な文書を作成。それに基づき最終的な決裁権者の判断を仰ぐため、あとから検証可能だ。外部とのやりとりの記録も録音を書き起こしたように詳細であることが多い。

 たとえば、米ソ英仏中5カ国以外による核兵器保有を禁ずる核不拡散条約(NPT)に日本が参加するかどうかをめぐって、1975年2月、日本政府から米政府に、「NPT批准を催促する大統領または国務長官の個人的なメッセージ」をNPT反対派の自民党政治家に送ってほしいと依頼した経緯が米国務省の記録で分かる。一方、日本の外務省にこれに関する文書の開示を請求したところ「不存在」との回答だった。

 米国でも、最初から今の公文書管理があるわけではなく、様々な不祥事を経て、制度を充実させてきた。ウォーターゲート事件に関する議会や検察の調査・捜査の過程で73年、大統領執務室での事件直後の会話の録音テープが一部、消去されていたことが判明。これをきっかけに、大統領による記録破壊を防ぐ目的で大統領記録法が制定された。それ以降のホワイトハウスの公文書は、手書きのメモや下書きに至るまで保存されており、秘密指定を解除されたものは、だれでも閲覧できる。

 「米国はもとより、欧州諸国、近隣の中国や韓国と比べても、我が国の公文書管理体制は見劣りする状況である」――。政府の有識者会議は、08年11月にとりまとめた最終報告でそう指摘し、立ち遅れを批判した。「公文書の管理を適正かつ効率的に行うことは、国が意思決定を適正かつ円滑に行うためにも、国の説明責任を適切に果たすためにも必要不可欠である」

 これを受けて09年に公文書管理法が制定されたが、今、状況は悪化している。早急な是正が必須だ。


  奥山俊宏(編集委員