「豊洲集客の目玉、暗礁 業者「築地活用」に反発・都、再々公募踏み切れず 千客万来施設」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2018年5月16日16時30分)から。

 豊洲市場に整備予定の集客施設千客万来施設」の行方が混沌(こんとん)としている。豊洲移転後の築地市場跡地の再開発について、小池百合子東京都知事が「食のテーマパーク」構想を掲げたことに運営予定の事業者が反発し、計画は中断。1年近くたっても都と事業者の交渉が進展せず、互いに引くに引けない状況になっている。

 「(交渉を打ち切って)再々公募をという声が上がっているのも事実」。小池知事は11日の定例会見で、事業者との交渉決裂の可能性を認める一方、「積み重ねもある。ビジネスパートナーとして環境を整えるのも一つ」と交渉を継続する考えを強調した。

 事業者は、全国で温泉施設を運営する「万葉倶楽部」(神奈川県小田原市)。「社運をかけた大仕事」(幹部)と、飲食店が入る商業棟や温泉施設の建設を計画してきた。

 しかし、小池氏が知事に就任し、築地市場から豊洲市場への移転延期を表明。千客万来の開業も延期になった。さらに都議選前の昨年6月に、小池氏が築地跡地の「食のテーマパーク」構想を打ち出すと、万葉の高橋弘会長が「はしごを外された」と反発。築地に同様の施設ができれば千客万来の採算が悪化すると懸念し、小池氏の構想の撤回や謝罪を求め、計画を中断した。

 ■知事が業者を訪問

 都は万葉側に土地の貸付料の減額などを提案して交渉してきたが、決着せず、すでに知名度アップの好機だった2020年東京五輪パラリンピックに開業が間に合わない見通しだ。事態打開を図ろうと、小池知事は今月1日に自ら急きょ万葉本社を訪問。「誤解を与えたとしたら申し訳ない」と伝えたが、高橋会長は「明確な謝罪がなかった」と納得せず、「テナント募集をすべて引き受けてほしい」などと求めた。

 万葉は、基本的に築地跡地の具体的な方針が見えなければ、事業継続を判断できないという立場。ただ、すでに設計費などで10億円を使っているといい、高橋会長は「降りるに降りられない」とも言う。

 一方、都の幹部も「うちも自分から交渉を打ち切ることもできず、まるでチキンレース」とこぼす。

 小池知事は「食のテーマパーク」構想を「一つの考え方」と後退させたが撤回はせず、専門家らでつくる検討会議に委ねている。ただ、検討会議が今月中にもまとめる築地跡地の提言に具体的な施設の内容は盛り込まれず、万葉が納得しない可能性が高い。

 ■10月開場は変えず

 万葉と決裂すれば、再度の手続きに1年ほどかかり、事業者が手を挙げる保証はない。地元の江東区集客施設の整備を強く求めており、白紙に戻れば反発は避けられない。都は今年10月11日の豊洲開場を変えない方針だが、幹部らは区の説得に追われ、スムーズな移転に影響が出ないかと危惧する。さらに、都側から万葉との契約を破棄すれば「損害賠償を求めて訴えられるリスクもある」(幹部)という懸念も抱える。

 決裂すれば小池知事にも打撃となる。都議会では、市場移転問題でたびたび批判され、「また批判されることを知事も気にしているようだ」と都幹部は語る。都の関係幹部は連日のように集まって対応を協議している。しかし、「どこまでやれば万葉が納得するかが分からない」と嘆く。

 築地から豊洲に移る予定の市場業者は冷ややかに見つめる。仲卸業者の女性は「移転延期にみんな振り回されている」と素っ気なく語った。(西村奈緒美、有吉由香)

 ◆キーワード

 <千客万来施設> 築地市場(東京都中央区)から豊洲市場江東区)への移転に伴い、豊洲の市場施設に隣接して「にぎわい施設」をつくろうと都が計画。今年8月に170〜280店が入る地上3階建ての商業棟、19年8月に地上10階建ての温泉・ホテル棟を開業することになっていた。