禁断の「Nワード」発言でもトランプ支持層は揺るがない

 以下のサム・ポトリッキオ氏による Surviving The Trump Eraというコラムは、ニューズウィーク誌(2018年08月25日(土)11時00分)から。
https://www.newsweek.com/potus-trump-n-word-poll-america-racism-1090610

 サム・ポトリッキオ Surviving The Trump Era

<アフリカ系の元ホワイトハウス高官の「告発」により、トランプの人種差別と政権の迷走は明白だが......>

狭量で意地が悪く、人種差別的で感情の起伏が激しい――いかにもドナルド・トランプらしいツイッターへの書き込みだった。トランプは8月13日、ホワイトハウスの広報担当だったオモロサ・マニゴールトをツイッターでこき下ろした。

「頭がおかしい。(トランプが司会を務めたテレビ番組の)『アプレンティス』で3度もクビになった。今度がついに最後のクビだ。今まで何かを成し遂げたことはないし、今後も一生ないだろう。目に涙をためて雇ってくれと懇願するから、オーケーと言った。でも、ホワイトハウスで嫌われていた。意地が悪く、頭が良くない」

アフリカ系アメリカ人女性のマニゴールトは、『アプレンティス』に出演していた経験の持ち主。16年の大統領選でトランプ陣営に参画し、政権発足後はホワイトハウスの広報部門に職を得た。トランプのホワイトハウスでは唯一のアフリカ系アメリカ人の高官だったが、今年1月に政権を去った。ジョン・ケリー首席補佐官から辞任を求められたとされる。

その時点では、大きな騒動に発展する気配はなかった。しかし、マニゴールトがトランプや政権幹部との会話の録音を公開し、回想録を出版したことにより、トランプは事の重大性に気付き始めた。回想録では、トランプがアフリカ系アメリカ人への重大な差別発言を繰り返していたことが記されている。

トランプは今、自分の本性が全世界に暴露されることに怯えている。大統領選期間中に、過去に女性へのわいせつ行為を自慢した発言の録音が公表されたときの再現になりかねない、と。

ずさんなセキュリティー

今回のスキャンダルには、今のホワイトハウスの全てが凝縮されている。

第1に、トランプはアメリカ大統領を務める準備ができていなかった。04年のプレイボーイ誌のインタビューでは、マニゴールトを嘘つきと呼び、就職のための紹介状を書くつもりもないと酷評していた。しかし、政権が発足すると、そんな人物をホワイトハウスの高官として採用した。

第2に、トランプは人種差別主義者で、スタッフは誰もがそのことを知っていた。トランプが非白人を侮辱する発言をしていることは周知の事実だ。

マニゴールトが公開した録音によれば、大統領選の選挙スタッフの間では、トランプがアフリカ系アメリカ人への侮辱表現である「Nワード」(「N」で始まるいくつかの単語)を使っていたことが暴露された場合の対応も話し合われていた。 

第3に、トランプ政権は途方もなく無能で混乱している。政権側は、ホワイトハウスの作戦司令室で録音が行われたことの違法性を問題にしている。しかし、そもそも録音できたこと自体がホワイトハウスのセキュリティー体制のずさんさを浮き彫りにしている。

第4に、このような実態が明らかになっても、トランプの支持率が急落することはなさそうだ。トランプには、有権者の35〜40%の岩盤支持層がある。ぞっとする話だが、トランプが禁断の「Nワード」を口にした会話の録音が公開されたとしても、彼らのかなりの割合は問題と感じないかもしれない。

これまでもトランプは、障害者をあざ笑い、女性へのわいせつ行為を自慢し、政敵への攻撃を外国勢力に公然と頼み、独立したメディアを「人民の敵」と呼んできた。オバマ前政権から引き継いだ経済が好調を保っていることを考えると、トランプが何をしても支持者が減ることはなさそうにみえる。

一方、アフリカ系アメリカ人たちとの関係も変わりそうにない。トランプとアフリカ系アメリカ人コミュニティーの関係は、とっくに冷え切っている。

とはいえ、実際に「Nワード」のテープが公開されれば、わいせつ行為を自慢した発言が暴露されたときのように、メディアの追及と批判が強まることは間違いない。

<本誌2018年8月28日号掲載>