「沖縄に新基地は必要?「抑止力」ない現状 田岡俊次さん」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2018年10月7日13時51分)から。

 全国の米軍専用施設の7割が集中する沖縄。新たな米軍基地建設の是非が最大の争点となった県知事選で、玉城デニー氏が過去最多得票で勝利しました。この問題にどう影響するのでしょうか。また、新基地は本当に沖縄に必要なのでしょうか。沖縄の抱える問題とヤマト(本土)の人々の向き合い方について、3回シリーズで考えます。

「新設認めぬ」民意の表れ

 「新基地建設は絶対に認めない。日本全体でどこに持って行くか考えてください。国民がこれ以上、米軍は必要ないというのであれば、米軍の財産はアメリカに引き取っていただく。それでいいと思います」

 9月30日夜、沖縄県知事選で初当選を果たした玉城デニー氏(58)が喝采と声援のなか支援者らに語った言葉です。

 名護市辺野古で進められる米軍基地建設に対し、明確に反対を訴えた玉城氏の勝利は、人々の切なる願いの表れでもありました。

 1996年に決まったこの計画は、中部・宜野湾市にある米海兵隊普天間飛行場を返還し、代わりの軍用飛行場を建設するというもの。人口密集地での危険性を減らすなどが最初の目的でした。2006年、辺野古沿岸部を埋め立ててV字形滑走路を建設することで日米が合意。「負担軽減」と言っても辺野古にも人は住んでいます。ただでさえ多い基地を、また新たにつくることへの反対は根強く、今回まで6回の知事選でこの問題が問われました。

 沖縄には米軍の陸・海・空軍と海兵隊がいます。空軍は極東最大といわれる嘉手納基地(沖縄市など)があり、海軍には軍港ホワイトビーチ(うるま市)などがありますが、海兵隊の基地面積は最も広く、全体の約7割になります。陸海空の機能をあわせ持ち、緊急時の展開が可能とされ、その航空基地が普天間です。

問題多発の海兵隊 国外移転の提案も

 近年、特に海兵隊に関わる事件や事故が問題になっています。04年、大型ヘリが沖縄国際大学に墜落。一昨年は名護市沖の浅瀬に大型輸送機オスプレイが墜落。昨年はヘリが民間地で炎上。飛行中のヘリから部品が落下……。95年、小学生を拉致、暴行する事件を起こしたのも海兵隊員らでした。一昨年は元海兵隊員が女性を殺害し、沖縄は悲しみと怒りに包まれました。

 海兵隊は沖縄にいる必要があるのでしょうか。疑問を抱く人は少なくありません。海兵隊を輸送する強襲揚陸艦などの母港は、800キロ近く離れた長崎・佐世保基地。そこから兵員を乗せるために沖縄まで来て、海兵隊はその艦船に乗って多くの期間、アジア各地へ移動して訓練などを行っています。

 安全保障問題に詳しい有識者によるシンクタンク「新外交イニシアティブ」(ND)は、部隊が結集する拠点を沖縄ではなく海外に置いても機能は損なわれないとして、海兵隊の国外移転を提案しています。

 では、海兵隊が存在することによって相手に攻撃を思いとどまらせる「抑止力」はあるのでしょうか。12年の日米合意で、在沖海兵隊のうち約9千人がグアムなどに移転することが決まりました。残る海兵隊の部隊だけでは大規模紛争には投入できません。また仮に海兵隊が撤収しても沖縄には依然、多くの米軍基地が存在し、「本土」にも第7艦隊(神奈川県横須賀市)などの強大な米軍兵力が駐留しています。

 日米安保条約が締結されて67年。国内の米軍基地の意味を、私たちは真剣に議論してきたでしょうか。「抑止力」「辺野古が唯一」といった言葉の内実を、どの程度考えたでしょうか。沖縄の選挙結果は国民全体にそのことを問いかけています。(川端俊一)

現状の態勢「抑止力」にならぬ 軍事ジャーナリスト 田岡俊次さん

 沖縄の海兵隊の大部分はグアムなどに移転し、戦闘部隊で残るのは第31海兵遠征部隊。約800人の歩兵大隊にオスプレイなどの部隊が付きますが、戦争をできる兵力、装備ではなく、「抑止力」にはなりません。第一の任務は、戦乱や災害の時の在留米国人の救出。現地で空港や埠頭(ふとう)を一時確保し、そこに米国人を集めて脱出させることです。その部隊が沖縄に残るのは、朝鮮半島有事や中国での暴動を想定した場合、グアムからでは何日もかかるからです。

 鳩山政権の時、私は普天間の部隊を長崎県海上自衛隊大村航空基地に移すことを提案しました。歩兵は佐世保市陸自相浦駐屯地へ移せば佐世保基地揚陸艦部隊とも近くなり、海兵隊に異論はないはずです。

 在日米軍は日本を守るためではなく、西太平洋、インド洋に出動するため待機しています。「日米防衛協力のための指針」によれば、尖閣諸島防衛や奪回に海兵隊が参加することはない。だが駐留経費の過半は日本が負担し、日本にいる方が安上がりだから駐留が続くという面もあります。

「安心」の恩恵と負担 どう考える 元沖縄タイムス論説委員 屋良朝博さん

 玉城デニー新知事は辺野古新基地に反対し、選挙で圧勝しました。それでも政府は、普天間飛行場を一日も早く移転・閉鎖するには辺野古の基地建設が「唯一の選択肢」として、工事を強行する方針です。

 一日も早いとは? 辺野古の工事が完了し、普天間移転が実現するのは10年先といわれています。総事業費1兆円ともいわれる予算を投じ、10年先まで「一日も早く」と政府は言い続けるのでしょうか。

 普天間を使う海兵隊を沖縄から出せば問題は一挙に解決します。すでに米軍再編で海兵隊はグアムや豪州などへ主力部隊の分散移転を決めています。残る小ぶりな部隊だけでも「本土」が引き取るべきでしょう。嫌なら国外移転を検討すればいい。沖縄は、米空軍嘉手納基地だけでも負担は重いのです。新知事には、「安心」の恩恵と負担をどう考えるかを全国に問いかけてほしいと思います。

県外は他人事 負担軽減を

 朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

●「沖縄出身で現在は関東住みですが、遠くから沖縄のことを見させていただいてとても悲しい気持ちになっています。高校生時代に県外の高校生との交流を持つ場がありました。その際に基地案内をしたのですが、みなさん軍用機を写真に撮りながらカッコイイ!と言っていました。高校生ながら、嫌な気持ちになったのを今でも鮮明に覚えています。県外の方は他人事で、沖縄に住んでる方の中にも当然ですが基地容認で基地にお世話になっている方々もいます。もし沖縄から基地撤退してもらい雇用の面で保障があればもっと良い沖縄になっていくのではないかな?とずっと考えてるところです。私には力がなくそれは無理かもしれませんが」(千葉県・40代女性)

●「沖縄県民には、大戦中に日本国内で唯一、戦場化して多大な犠牲を課している。このことを本土にある者は決して忘れてはならない。いわば本土の人々の身代わり同然であったと言えよう。沖縄県民には政治、産業、教育、福祉にわたり格別の配慮をと願ってやまない。私自身は、東京空襲にからくも生き残った幸運に恵まれた」(海外・80代男性)

●「トランプの姿勢を見ていると、これからは米軍が頼りになるかは未知数に感じる。米軍基地に税金を投入するくらいなら自衛隊基地を増強すべきであると考える」(大阪府・40代男性)

●「僕は10代なので、教科書やニュースで沖縄問題を知った。基地をなくすことのメリット・デメリットは本当に悩ましいことだと思う。世界中が平和的な考えならそんな悩みさえ無いのだろうが」(宮崎県・10代男性)

●「ヘリが落ちた沖縄国際大学へ行き、実際に普天間基地を見てきた。市街地の真ん中に基地があり、そこから飛び立つヘリや戦闘機の爆音はすさまじいものであった。そんな環境に、さらにヘリの窓枠が落下したりオスプレイが不時着するような危険性があっては一刻も早く基地負担軽減をしなければならないと思う。また沖縄へ押し付けているという認識を本土の人はないがしろにしすぎではないか。戦略的に重要だとふんぞり返る前に、少なくとも日米地位協定の見直しを求めるなど沖縄の人々の負担を減らすことが必要ではないかと感じる」(埼玉県・20代男性)

●「沖縄は、地形上重要な位置にあり、米軍基地があることでアジア、東シナ海の安全を保てるのに、必要だと思います。沖縄の人たちに苦痛があるのは本当に心苦しいです。かといって日本のどこに、これ以上の場所があるでしょうか? 沖縄県民の方々の苦痛も減らし、基地との共存を探ること。難しいけどそれしかない」(愛媛県・60代女性)

●「沖縄以外も含めた在日米軍の必要性、仮に必要だとしても、どこにどの程度が妥当なのか、論理的な説明がまったくなされていない。核の傘地政学リスク云々(うんぬん)との曖昧(あいまい)な言葉ばかりが並ぶ。現代においては、沖縄集中の後ろ盾となる根拠も無い。沖縄が受けている差別は解消されるべきだ。そのために、政府は尽力すべきだし、そうさせる責任は私たち国民にある」(千葉県・50代男性)

●「正直なところよく分からない。基地に対する日米の経済的負担の実情や安全保障の内容、米軍による事件や事故に対する各国の対応の比較、そもそもなぜ米軍の治外法権を許して基地を日本に置き続けなければならないのか。感情論やイデオロギー抜きで、客観的事実と防衛ついての基本的な学識にアクセスすることが非常に難しく、もどかしい」(愛知県・40代女性)

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(川端俊一)