「「移民政策ではないか」新在留資格、与党内からも疑問」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2018年11月3日08時19分)から。

 外国人労働者の受け入れ拡大に向けて、新在留資格「特定技能」を盛り込んだ出入国管理法改正案が2日、閣議決定された。「人手不足」を理由に、大きな政策転換をする法案は、国会に議論の舞台を移す。ただ、肝心の受け入れ業種や人数は法案で示されず、制度全体は見えてこない。野党だけでなく、与党からも不満の声が上がっている。
 政府・与党は8日の衆院本会議で改正案を審議入りさせる予定だ。しかし、国会では既に「生煮えだ」との批判が相次いでいる。
 まず野党がただしているのが、受け入れ人数の見通しだ。2日の衆院予算委員会では国民民主党奥野総一郎氏が「健康保険への影響もあり得る。どれぐらい増えるかあらかじめ示してほしい」と質問した。政府内には「初年度で4万人」という試算もあるが、山下貴司法相は「関係省庁と精査している。法案の審議に資するように説明したい」と述べるにとどめた。
 受け入れ業種や人数を改正案に明記せず、法成立後に省令で定めるという政府の姿勢にも批判が出ている。立憲民主党長妻昭代表代行は記者団に「業種は増えるのか、来年4月以降のサポート支援はどうなのか、一切分からないがらんどうの法律だ」と指摘。参院の国民民主党舟山康江国会対策委員長も2日の会見で、「基本が決まってからきちんと法案提出をして、中身を詰めていくのが当たり前だ」と述べた。
 改正法施行後に、実施状況の検証などを求める見直し条項を盛り込むことで、法案の国会提出にゴーサインを出した与党内にも「移民政策ではないか」「受け入れが青天井になる」との疑問がくすぶる。1日に衆院予算委で自民党岸田文雄政調会長は「政府は移民政策ではないとしているが、もう少しわかりやすい丁寧な説明をお願いする」と要望した。
 来日する人材像も見えない。政府は改正法の成立後に、在外公館などを通じて新制度の説明や、人材確保のための働きかけを始める方針だが、それでは新制度スタートまで時間も少ない。このため、当面は技能実習生から移行して働く外国人が多くなりそうだ。改正案では技能実習生としての経験が3年間あれば、試験を受けずに特定技能に移行できるとしている。
  1993年から始まった技能実習制度は、日本で学んだ技能を母国に伝えてもらうのが目的だが、実質的には「外国人を労働者と認めないためのまやかしの制度だった」(法務省幹部)と言われている。在留期間は最長5年で、17年末で27万人あまりが国内で暮らす。劣悪な労働条件が問題となり、自殺や失踪も起きている。1日の衆院予算委で立憲民主党の長妻氏は「これらの問題を解決してから門戸を広げる計画を立てるべきだ」と指摘した。
 在留資格が変われば、正式に「労働者」となり、原則として職場を変えることができない実習生と異なり、移住や転職ができる。この結果、労働環境が改善される可能性もあるが、人手不足が深刻な地方から賃金レベルが高い都市部への流入が起きる懸念もある。
 日本の在留期間が長くなれば、「母国に技能を伝える」という技能実習の目的も果たせない。ただ、山下法相は10月30日の会見で「特定技能でさらに技に磨きをかけて頂き、その後に持ち帰れば趣旨は全うされる」と述べ、矛盾はないとの立場をとった。
 新しい在留資格を創設するために入管法を改正し、来春から施行することは首相官邸の指示。法務省などは急ピッチで作業を進めてきたが、具体的にどのような試験を使って技能レベルを判定するのかや、来日する外国人の生活支援体制など決まっていない点も多い。法務省幹部は「このままではもたない。近く国会で説明するべく、現場に気合を入れた」と話す。(浦野直樹、笹川翔平)

背景に経済界からの要望

 首相官邸が新たな在留資格の導入を急ぐ背景には、人手不足の解消を求める経済界の声がある。6月の「骨太の方針」で導入方針を盛り込み、25年ごろまでに50万人超の外国人労働者の受け入れ拡大を目指すとした。
 外国人の受け入れ人数の見通しは、その制度を議論する上で、根幹となるデータだ。政府は外国人労働者との「共生のための対応策」の強化も掲げるが、人数が不透明なら日本語教育や生活支援の体制づくりをどうするかの議論もおぼつかない。過剰に受け入れることになれば、日本人の雇用や賃金にも影響を及ぼしかねない。
 法案では、分野ごとに定める「運用方針」に人手不足の規模を盛り込む、としている。法務省は「客観的なデータを使って算出する」というが、どんな指標を使い、どう算出するかの手法はまだ示していない。
 受け入れ対象の「業種」と「分野」の区別もわかりにくい。政府は受け入れ候補を「業種」で示す一方、受け入れるのは「分野ごと」と説明する。建設や造船が「業種」、その業種の中での溶接や塗装が「分野」といったイメージだという。だが、細かい分野に対応するデータをどこから引用するのか。法務省幹部は「今まさに精査しているとしか言えない」と言葉を濁す。
 そんな状況の中、人手不足の業界はアピールを強め、一人でも多く受け入れ数を増やそうとしている。
 「今後5年で2万1千人の外国人スタッフが必要」(日本旅館協会)、「5年後を見通すと13万人が必要だ」(全国農業会議所)――。法案を審査した自民党の法務部会で10月23日、受け入れ候補に挙がる14業種のうち、ヒアリングに招かれた7業種の業界団体はそれぞれ、業界が独自に試算した人手不足の推計や高止まりする有効求人倍率などのデータを示しながら、口々に窮状を訴えた。
 ある業界団体幹部は「技能を測る試験をどうつくるかなど、役所と一緒に半年以上、準備してきている」と話す。
 来年夏には参院選が控える。自民党の法務部会で、受け入れ拡大に慎重な意見が相次ぐ中、同党の野村哲郎・農林部会長はこう牽制(けんせい)した。「反対意見が自民党から出ていると誤解を生む。それこそ、来年の選挙なんてできませんよ。みなさん」(内山修)