「海外記者、玉城デニー知事をどう見た? 初訪米前に会見」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2018年11月10日09時10分)から。

 米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の移設問題をめぐる政府との対立が深まる中、沖縄県玉城デニー知事は9日、東京の日本外国特派員協会で会見し、名護市辺野古への移設反対を海外メディアに訴えた。米国世論に働きかけるため、11日には就任後初めて訪米する。出発を前に、外国の記者はどう見たのか。

 沖縄県玉城デニー知事が9日、東京都千代田区の日本外国特派員協会で就任後初めて会見し、米軍普天間飛行場宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対していると改めて訴えた。「沖縄の過大な基地負担を減らすのでなく、機能強化して新基地を造るのは絶対に認められない」と強調した。

 玉城氏は、米海兵隊員と沖縄の女性の間に生まれた出自を語り、日米安保体制は認める立場と自己紹介。「沖縄の全基地の即時閉鎖・撤去は求めていない」と述べた。その上で、米軍基地があるがゆえに事件・事故が今も後を絶たない実情を説明し、「基地の整理縮小を着実に進めていく必要がある。日米地位協定の抜本的な見直しを求めている」と主張した。

 海外記者からは、安倍政権が進める移設工事をどう止めるのかといった質問が出た。玉城氏は、安倍晋三首相に対話による解決を求めていると説明。工事について「全体のわずか数%しか進んでおらず、土砂投入もされていない。あきらめることはない」と話した。

 埋め立て予定地の海底の一部が軟弱地盤とされ、工法の変更などが必要になる可能性が指摘されており、「計画の変更が生じるたびに知事の許可がいる。その都度工事が止まる。完成まで何年かかるかわからない。今の段階で工事を止めるべきだ」と語った。米国の議員を沖縄に招き、現状を視察してもらう考えも示した。(山下龍一)

会見、ほぼ満席

 知事選の直後、米紙ニューヨーク・タイムズが社説で「何度も何度も、沖縄の民意は新しい基地を欲していないことを示している。日米は公平な解決策を探るべきだ」と記すなど、海外メディアの関心は高い。会見場の約120席はほぼ満席だった。

 「日本の政治家は本音と建前を使い分けるが、彼はクリアだ」。南ドイツ新聞のクリストフ・ナイハード記者(64)はそう語った。「米国は基地を使っている責任者。県民の声が(日本)政府から(米国に)届けられないのであれば、我々はその声を伝える責任があり、皆さんも聞く責任がある」と述べた玉城氏に納得したという。

 辺野古への移設方針を変えない安倍政権の姿に「東京は沖縄を『植民地』と考えているのでは」と言う。日本の都道府県であるにもかかわらず、政府は沖縄の民意にほとんど関心がないように感じるという。「政府が対話に後ろ向きな姿勢をとり続けるのだから、米国に呼びかけるしかない。訪米するのは、正しい選択だろう」

 一方、香港フェニックステレビの李苕(リミャオ)東京支局長は、玉城氏のメッセージは弱いと感じた。「中国は(軍事的に)脅威か」との質問に「国防や外交は国の専権事項。県ができることは、アジア全体の平和をつくるため、沖縄からどういうアプローチができるかだ」と明言を避けたからだ。

 玉城氏は辺野古移設に反対する一方、自衛隊宮古島配備計画といった「南西シフト」など安全保障政策全般への立場は不明確だと感じる。「『自治体外交』を掲げて訪米するのだから、米国だけでなく、中国をどう見ているのかも遠慮なく示したほうがいい。自身が考える『地域の安全保障』をもっと明確にしないと、世界では理解されにくいだろう」

 日本滞在歴計8年で、米英でも仕事をしてきたトルコ人のフリージャーナリスト、イルグン・ヨルマズさん(47)は「沖縄が『辺野古』に反対している理由は、私も含め海外には十分伝わっていない。その意味で、訪米は理解を広めるチャンス」と指摘する。「米国で訴え、米国から日本政府にプレッシャーがかかるのなら、日本政府も聞く耳を持つのでは」と語った。

 関心は、来春までに実施される県民投票だ。「イエスか、ノーかを問うことは大切。ノーが示され、それでも日本政府が民意を無視するのなら、ビッグニュースだ。日本には民主主義はないのか、と問われるだろう」(成沢解語、木村司、上遠野郷)

11日から訪米

 玉城氏は11日から訪米する。米海兵隊員の父親を持ち、ルーツの一つである米国で、米軍普天間飛行場宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対する立場を示す。9月末の知事選で過去最多得票で当選したことが米国で報道されたこともあり、玉城氏は早期の訪米を望んでいた。

 現地時間の11日にニューヨークに到着。ニューヨーク大学で沖縄の多様性や民主主義をテーマに一般向けの講演をする。13日にはワシントンに移動。上下両院議員や国務省国防総省の幹部との面会を調整している。安全保障分野の有識者との面談も予定している。16日に帰国する。

 玉城氏は現地メディアの取材も積極的に受ける意向で、父の母国でどれだけ訴えを広められるかも注目される。(山下龍一)

沖縄のフェイクニュース、地元2紙がチェック

 玉城デニー氏が当選した9月の沖縄県知事選では、フェイクニュースを見極め公平な選挙とするため、地元2紙が「ファクトチェック」に取り組んだ。選挙期間中としては初めての試みだった。

 ファクトチェックはネット上に広まる情報や、政治家の発言の正確性を検証する手法。今回の取り組みの背景には、2月の名護市長選でフェイクニュースが拡散したことがある。

 沖縄タイムスは、デスクや記者12人のチームをつくり、日々ネット上を「パトロール」。専門家のアドバイスも受けてデマの可能性がある情報を収集し、17件を検証。投開票3日前に2件を誤りと指摘した。

 そのひとつは「佐喜真淳氏の政策の文字数は2・2万字超えで、玉城デニー氏は約800字」という情報だ。玉城氏への批判材料に使われていた。陣営などへの取材の結果、佐喜真氏の分は政策集、玉城氏の分はホームページの一部で、比較の根拠が異なっていることが確認できたという。

 琉球新報は拡散した情報の誤りなどを指摘する計4本の記事を掲載。「安室奈美恵さんが特定候補を支援」といった情報が画像付きで出回ったが、投稿者や陣営に取材し、安室さんが支持した事実はない、と結論づけた。

 公約に関わるものも検証するか、については、2紙の判断が分かれた。

 佐喜真氏は「携帯電話利用料の4割減を求める」と政策集に記載したが、ネット上では「携帯代4割削減」と拡散。「知事に権限はない」と批判も起きた。

 新報は、若者たちの間で携帯代が安くなるといった情報が出回っていたことを重視し「知事に権限はないという書き込みは適正」「引き下げを『求める』ことはできるが、事業者が従う法律はない」と記事にした。タイムスは社内で議論した結果、掲載は見送った。担当した與那覇里子記者(35)は「公約をどう実現できるのかは、候補者同士の討論会や取材でただすべきだ。一人だけを対象にするのでは、公平性も保てないと考えた」という。

 一方、NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」は、ファクトチェックの対象となりそうな情報を人工知能(AI)で集めるシステムを東北大大学院の乾健太郎教授の研究室やスマートニュースと開発。間違いを第三者から指摘されているものを収集し、新報やネットメディアなどと共有したほか、一部をホームページで公開した。

 FIJの楊井人文事務局長は「AIは自動的に情報を拾うので、どの候補者に関する情報も関係なく集められる。公平性を保つことにもつながる」と話す。

 「沖縄報道」の著書がある専修大学山田健太教授(言論法)は「選挙期間中に新聞社が『ファクトチェック』を宣言して報じたのは初めてだろう。沖縄を巡っては『普天間飛行場の場所には人が住んでいなかった』といった誤解に基づく情報が数年前から拡散。両紙は紙面で反論し、正しい理解を広めてきた実績がある」と指摘。「選挙報道は公平性の担保が強く求められているが、真偽不明な情報がSNS上で広まり、『事実』を知りたい欲求も強まっている。両紙の試みを評価し、よりよいファクトチェックのあり方を議論するきっかけとしたい」と話した。(丸山ひかり、木村司)