「水道事業にも「公設民営」 「民間に運営権、責任は自治体」改正案審議」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2018年11月23日05時00分)から。

 公共部門の民間開放を政府が進めるなか、水道事業にも民営化への道が開かれる。事業の最終責任を自治体が負ったまま、民間に運営権を長期間売り渡せるようになる。水道法改正案に盛り込まれ、開会中の臨時国会で成立する見通しだ。海外では、料金高騰や水質悪化で公営に戻す動きもあり、導入への懸念は強い。

 7月に衆院を通過した改正案が22日、参院厚生労働委員会で審議入りした。民営化の手法は「コンセッション方式」と呼ばれ、企業が運営権を買い取り、全面的に運営を担う。契約期間は通常20年以上だ。自治体が利用料金の上限を条例で決め、事業者の業務や経理を監視する。

 安倍政権は公共部門の民間開放を成長戦略として推進。2013年に閣議決定した日本再興戦略で「企業に大きな市場と国際競争力強化のチャンスをもたらす」と位置づけた。空港や道路、水道、下水道をコンセッション方式の重点分野とし、空港や下水道では導入例が出てきたが、水道はゼロだった。

 今の制度では、最終責任を負う水道事業の認可を、自治体は民営化する際に返上する必要があり、大きな障壁だった。改正案では、認可を手放さずにできるようにして、導入を促す。

 ■300億円超削減、試算 検討の宮城

 改正を見据えた動きもある。県内25市町村に飲み水を「卸売り」する宮城県は工業用水、下水道と一括にしたコンセッション方式を検討している。

 人口減少などで、飲み水を扱う水道事業の年間収益は今後20年で10億円減る一方、水道管などの更新費用はこの間、1960億円を見込む。「経営改善にはこの方法が一番」と、県企業局の田代浩次・水道経営改革専門監は話す。

 県内では、浄水場でのモニター監視や保守点検など多くの業務を民間が担う。県の構想では、これらの運転業務に加え、一部の設備の管理・更新を20年間、民間に任せる。業務委託契約を一括にでき、コスト削減効果は計335億〜546億円と試算する。

 浜松市も水道で検討している。同市は4月、下水道事業に全国初のコンセッション方式を導入。水道サービス大手仏ヴェオリア社の日本法人などが20年間の運営権を25億円で手に入れた。トラブルはないという。

 ■安定供給に懸念も

 だが、営利企業に委ねる負の面もある。先行する海外では水道料金の高騰や水質悪化などのトラブルが相次ぐ。失敗例は監視機能などに問題がみられ、改正案では、水道は国や都道府県が事業計画を審査する許可制とし、自治体の監視体制や料金設定も国などがチェックする仕組みにする。

 政府は「課題に対処しうる枠組みだ」と説明するが、「災害や経営破綻(はたん)時に給水体制が守れるか」など不信の声は絶えない。

 先んじて導入の条例を検討した大阪市は「経営監視の仕組みに限界がある」などの意見から17年に廃案に。新潟県議会は今年10月、「安全、低廉で安定的に水を使う権利を破壊しかねない」として改正案の廃案を求める意見書を可決した。自民党議員も賛成した。

 拓殖大の関良基(せきよしき)教授(環境政策学)は「水道は地域独占役員報酬法人税も生じ、適正な料金になるのか疑問だ」とし、「問題が起きたときにツケを払うのは住民だ」と反対する。

 東洋大の石井晴夫教授(公益企業論)は「コスト削減や雇用創出といった民間が持つ良い点を採り入れられる」と利点を挙げる一方、「災害時対応への備えは不可欠。料金も、需要予測や収支見通しを示した上で住民の合意を得るべきだ」と話す。(姫野直行、阿部彰芳)

 ■30年で料金5倍、パリ再公営化

 フランスでは、世界で民営水道事業を手がける「ヴェオリアウォーター」など「水メジャー」と呼ばれる巨大多国籍企業がある。仏メディアによると、3分の2の自治体が民営を導入している。だが近年は、「水道料金が高い」として公営に転じる動きもある。

 パリは1984年、二つの水メジャーに水道事業を委託した。だが2010年に再び公営化した。水道料金の高騰が主な理由で、パリ市によると、10年までの30年間で、水道料金は5倍近くに上がったという。

 パリの水道事業を担う公営企業「オ・ドゥ・パリ」のバンジャマン・ジェスタン専務取締役は「水道事業は、水源管理や配水管のメンテナンスなど、100年単位での戦略が必要だ。短期的な利益が求められる民間企業は、設備更新などの投資は、後回しになりがちだ」と話す。「民間企業は株主に利益を還元しなければいけないが、我々にはそれがない」

 南仏ニームでは、半世紀の間、水メジャーに委託し、設備の老朽化が放置されたために、漏水率が30%に至っている様子が報じられた。南東部ニースは、価格を安くすることを理由に13年に公営に方針転換した。(パリ=疋田多揚)