「兵庫)「万博反対」はなぜ? 小笠原博毅・神戸大学教授」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2018年11月11日03時00分)から。

 23日、2025年万博の開催地が決まる。大々的に誘致活動を続けてきた大阪府・市は見事開催を勝ち取れるのか。関西じゅうの熱い視線と関心が集まる中、誘致反対を一貫して唱えてきた小笠原博毅・神戸大学教授の姿勢に揺らぎは見えない。あえて今聴く、「万博開くべからず」の論理。

 ――なぜ万博開催に反対するのですか。万博を契機に大阪や関西の復権を……

 「それ、本気で言ってます? わずか半年ほどの開催で、大阪、関西経済が本当に活気を取り戻せるのですか。一過性のお金が一部の企業に落ちるだけです」

 ――1970年大阪万博は大成功でした

 「私は、あれが大阪の終わりの始まりだったと考えています。64年の東京五輪、70年大阪万博。国家的大イベントに備えて新幹線や高速道路が急速に整えられ、利便性と引き換えに東京一極集中が一気に進んだとみています。70年万博で大阪の何がどう良くなったのか。70年万博の『成功体験』は、一定の世代が共有する、高度成長期の日本へのノスタルジーです。その心情は理解できなくもないですが、市民生活の課題をよそに、巨額の公金を使うほどのことなのか」

 ――大阪は、万博と、カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致をセットで進めています

 「もし誘致に成功すれば、万博やカジノを理由として、大阪の下町や古い街並みは開発の波に洗われてゆくでしょう。ジェントリフィケーション(gentrification=高級化)といいますが、それとひきかえに地域の特性や文化は失われていく。時代遅れの開発主義、拡張主義です」

 ――万博というイベントそのものに異議あり、と

 「1867年パリ万博の時代からしばらくは、政府と企業が協力して自国のモノと技術を世界に売り込んで新技術と商品によって資本主義を活性化させ、欧米の植民地主義を後押ししました。今や企業活動はグローバル化し、国家と企業の活動領域は重ならない。70年万博を彩った国別パビリオンの意義は失われています。膨大な資金のあるグローバル企業の最先端技術を前に、在阪の企業はそれに見劣りしない何かをPRし、長期的なメリットを享受できるのでしょうか。町工場の、既に認められている技術を『小さいがすごい』と紹介するにとどまるのでは?」

 ――大阪が開催地となるなら、立派な万博にしたいです

 「その考えが間違いです。誘致、開催に批判的だった人が、途中から『後戻りできない』『どうせやるなら』となり、『ビジョンを明確に』『新しい発想を』などと『建設的』な提言を始める。そういう人たちを、私は『どうせやるなら派』と呼びます。彼らの批判的に見える建設的提言によって、2020年代に大阪で万博を開くことの矛盾や問題が覆い隠される。それどころか、開催への推進力になる。『どうせやるなら派』は、開催を前提とした価値観を、推進派と共有している点で同じです」

 ――では、どうすれば

 「日本人はタックスペイヤー(納税者)意識が薄い、としばしば指摘されますが、巨額の公金が投入される五輪や万博などの国家イベントは、税金の使途について意識が変わる好機でもある。人々がきちんと考えれば考えるほど、開催する意義や根拠への疑問は大きくなっていくはずです。私には意義も根拠も見いだせない。23日、仮に開催が決まっても、『返上すべし』『辞退すべし』と言い続けるつもりです」(聞き手・秋山惣一郎)

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 おがさわら・ひろき 1968年、東京都八王子市生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科教授。専門は社会学、文化研究。編著に、16人の研究者らと2020年東京五輪パラリンピック開催への異議を申し立てた「反東京オリンピック宣言」(航思社)など。