「小学校英語、初めての教科書は? 文法より「慣れ」重視」

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以下、朝日新聞デジタル版(2019年3月26日21時54分)から。

小学校英語の教科書のポイント
 来春から小学校で使われる教科書の検定が終了し、中身が公表された。5、6年で外国語(英語)が正式な教科となり、授業では教科書が使われるようになる。どんな中身なのか。

小学校教科書、ページ数が1割増 対話形式の要素増える
 「What would you like?(何になさいますか)」

 光村図書の5年の教科書に登場する表現だ。米ニューヨークの祖父母宅に遊びに行った2人の子どもがファストフード店で、注文を聞かれる場面で出てくる。

 こうした表現は現在、中学校で扱うが、文法上は「仮定法過去」で、高校で教える内容。編集者は「日常的な表現。難しい論理は中学以降でいい。まずは慣れることが大事」と言う。

 この単元では「I’d like~(~が好き)」の表現を使い、自分が食べたいものを伝えるとともに、「How much is it?(いくらですか)」と値段を尋ねることを覚える。グループに分かれ、店員と客になって千円以内で昼食を注文する活動をして単元は終わる。

 小学校は以前から「聞く」「話す」を通じて英語に慣れ親しむ「外国語活動」があり、現在は移行措置で教科としての授業もある。5年生を担任する都内の小学校教諭(28)は教科書の内容について「子どもにとっては割と簡単だろう」と話す。「ただ、定着するかは別問題。授業ではなんとなくできるが、結局すぐに忘れてしまう」

 教科になることで「読む」「書く」の学習が加わるが、児童は英語の音声に慣れていることが前提だ。教科書では「文字を追いながら英語を聞こう」(三省堂)、「音声を聞いて、次の英文をなぞってから書き写しましょう」(学校図書)などと記載されている。ある編集者は「8割は『聞く』『話す』に費やした」と言う。

 検定意見も、音声に触れないまま単語を読ませた箇所に「新出語を初見で読ませており、児童が活動出来ないおそれ」とついた。また、単語だけ出てきて、それを使った「活動」がないと「言語活動と効果的に関連付けて取り上げていない」と意見がついた。

 教科書の多くは、移行期間用に文部科学省が作った教材「We Can!」を参考に構成された。小学校の先生は英語の指導経験が乏しく、「大幅に変えてしまうと、やっと慣れた先生たちが使いにくくなる」(教育出版)との考えからだ。ゲームなどの「活動」がてんこ盛りの教科書も。活動は図を添えるなど、先生も子どももイメージしやすいようにした社が多かった。

 識者は新しい教科書をどうみるか。文科省の「英語教育の在り方に関する有識者会議」の委員だった立教大の松本茂教授(コミュニケーション教育学)は「絵やリスニング素材が多く、活動もたくさん。教科書としては9割方はこれでいい」と言う。「あとは、子どもが言いたい単語が教科書になければ、先生が一緒に調べて入れ替えてあげること。子どもにとっては生きた英文になり、話したくなるはずです」

 一方、同じく委員だった明海大外国語学部の大津由紀雄教授(認知科学)は「『読む・書く』が加わり、単語数や文型も多く、先生も子どももこなしきれないのではないか」と語る。「英語教室や塾で学ぶ子と、学校だけの子の間での英語への慣れの二極化が、さらに広がるだろう」と懸念する。(山下知子、編集委員・氏岡真弓)