「「性差別、東大も例外ではない」上野千鶴子氏、入学式で」

f:id:amamu:20051228113101j:plain
以下、朝日新聞デジタル版(2019年4月12日12時2分)から。

 「社会にはあからさまな性差別が横行している。東京大も残念ながら、例外ではない」――。12日にあった東京大の入学式で祝辞を述べた社会学者の上野千鶴子・同大名誉教授はこう語り、「世の中には、頑張っても報われない人や頑張ろうにも頑張れない人、頑張りすぎて心と体を壊した人たちがいる。恵まれた環境と能力を、自分が勝ち抜くためだけに使わず、恵まれない人々を助けるために使ってほしい」と新入生に訴えた。

 上野氏は祝辞の冒頭、昨年に東京医科大の医学部入試で女子差別などが明らかになったことや、他の私大医学部でも男子の合格率が高いことを紹介。東京大でも長年にわたって入学者における女子の割合がなかなか「2割の壁」を超えないことや、4年制大学への進学率の男女差などを列挙した。

 さらに、「社会に出れば、もっとあからさまな性差別が横行している」と指摘。東京大の場合は教授に占める女性の割合は7・8%、女性の学部長や大学院の研究科長は15人のうち1人にとどまり、歴代総長に女性がいないことを挙げ、「東京大も、残念ながら、例外ではない」と述べた。

 上野氏はそのうえで、新入生に向かって、「頑張っても公正に報われない社会が待っている。頑張ったら報われると思えることが、恵まれた環境のおかげだったことを忘れないでほしい」と呼びかけた。自身に入学式の祝辞を担当させたことを例に、「東京大は変化と多様性にひらかれた大学」とも紹介し、「これからあなた方を待っているのは、正解のない問いに満ちた世界。未知を求めて、よその世界にも飛び出してください」と、学外を含めて幅広く体験を積むことを求めた。

 祝辞を聞いた、金沢市出身で文科Ⅰ類で学ぶ林腰(はやしこし)杏優さん(18)は「弱い立場の人のために能力を使うように求められた言葉が心に刺さった。子どもたちが物質的にも精神的にも幸せになれるような取り組みをしたいので、どんなアプローチができるか大学でしっかり勉強して考えたい」と話した。

 理科Ⅰ類に入った静岡県出身の伊藤黎さん(19)も、「入試では自分だけのために力を使ってきたが、東大で学べる環境を生かして、弱い立場の人や発展途上国に寄与できるような知識を身につけていきたい」と述べた。

 文科Ⅱ類で学ぶ東京都目黒区の女子学生(18)は、東京大の女子学生が堂々と「東大生」と名乗れない雰囲気が、女性差別の一つの現象であるという言葉が心に残ったという。「勉強だけでなく、それ以外のことにもしっかり取り組み、堂々と『東大生です』と名乗れるようになりたい」と話した。(増谷文生)

東大総長は「今まさに大学の出番」
 東京大の入学式が12日、日本武道館(東京都千代田区)で開かれた。約3100人の新入生に向かって、五神(ごのかみ)真総長は「社会変革を駆動する大学の主役になってほしい」と激励した。

 式には新入生のほかに、保護者ら約5700人が出席。五神氏は式辞で、最近の政治や行政、産業界について、「短期的な利害に強く振り回され、長期的な視野からのビジョンがないと心配になるような判断がしばしばある」と指摘。「今まさに大学の出番だ。過去や未来を行き来して考え、自然や人間の本質を追求しながら、何が大事かを考えてほしい」と呼びかけた。

上野千鶴子氏の東大入学式の式辞は以下の東京大学のサイトで読める。
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message31_03.html