「証拠の開示拒否、違法 布川事件、県警の違法捜査も認定 東京地裁」

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以下、朝日新聞デジタル版(2019年5月28日5時0分)から。

 逮捕から44年間を経ての無罪確定から、さらに8年。「布川(ふかわ)事件」をめぐる訴訟で東京地裁は27日、検察の証拠開示、警察の捜査にそれぞれ違法性があったと判断し、国と茨城県に賠償を命じた。原告の桜井昌司さん(72)は「裁判所が踏み込んでくれたことに感謝したい」と笑顔を見せた。

 「検察官は公益の代表者として、事案の真相を明らかにする職責を負う。裁判の結果に影響を及ぼす証拠は、有利不利を問わずに法廷に出すべき義務がある」。判決はこう指摘し、元の裁判での検察の証拠開示のあり方を検討した。

 東京高裁の控訴審では弁護側が未提出の捜査報告書や供述調書の開示を求めていたが、検察は「関連性や必要性が薄い」などと拒否。結果的に、一審の無期懲役判決が支持された。

 27日の判決はこれらの証拠のうち、「桜井さんらを被害者方の前で見た」などと最終的に証言した複数の目撃者に関する捜査初期の報告書などに注目。「目撃した」という供述がなかったり、あっても日付を断定できていなかったりしていたことを踏まえ、「有罪を支える証言の信用性に影響を与えるもので開示の必要性は大きい」と指摘。拒んだ行為は違法と認定した。

 茨城県警の捜査や公判対応も厳しく追及した。

 桜井さんは、事件で亡くなった男性の遺体発見から1カ月余りたった後、別の窃盗事件で逮捕され、13日後に強盗殺人容疑で再逮捕された。判決は、この間の取り調べを担当した警察官について、目撃者の供述が得られていないのに「目撃者がいる」と告げた▽桜井さんの母が「犯してしまったことは仕方ないから早く自白するように」と言っている、とうそをついた▽自白したという新聞記事は載らないとうそを言った――などと列挙。「偽計」を用いて自白を得る取り調べで違法だったと判断した。

 公判では複数の警察官が、取り調べを録音したテープが「1本しかない」と証言していた。しかし、再審請求があってから、別の録音テープが検察から提出された。このテープにある自白内容はその後の自白内容と食い違いがあるうえ、編集した痕跡を指摘する鑑定書もある。判決は「警察に不都合な証拠だった可能性は否定できない」とし、警察官らが「故意に虚偽の証言をした」と認定した。

 損害賠償額は既に支払われた刑事補償金から充てる約7500万円は控除し、約7600万円とした。(新屋絵理、阿部峻介)

 ■「冤罪苦しむ仲間の力に」

 「冤罪(えんざい)で苦しんでいる仲間たちの力になれるような判決だ」。桜井さんは弁護団と記者会見を開き、晴れやかな表情で語った。「勝つ確信は揺るがなかったが、裁判所が踏み込んでくれたことに感謝したい」

 弁護団からは「画期的」という言葉が何度も出た。谷萩陽一弁護団長は「裁判所は常識的な判断をしてくれた」と評価。検察の証拠開示のあり方を判決が違法とした点をめぐっては、「国は、裁判所が出せと言わない限り出す義務はないと主張してきた。私たちの主張を正面から認めた」と述べた。冤罪事件であっても、警察・検察の違法性を認めて賠償を命じるケースは少ない。谷萩弁護士は「今回の判決が(賠償を認める)流れを作ってくれることを願っている」とも述べた。

 一方、法務・検察幹部からは不満の声が上がった。現在は重大事件などには証拠開示の制度があるが、布川事件が審理された当時はなかった。ある幹部は「今の基準で、さかのぼって違法性を指摘するのはおかしい」と語る。別の幹部は「今の制度で関連性のある証拠を開示しなかったら問題になるが、そんなことはしない」と強調した。(北沢拓也)

 ■画期的な判決

 元裁判官の水野智幸・法政大法科大学院教授の話 証拠開示の必要性を重視した画期的な判決だ。検察官を「公益の代表者」と再確認し、真実のためには弁護側に有利な証拠でも開示すべきだと指摘した点は重要だ。最高検も対外的には同様のことを発信しているが、現実はそうなっていない。近年になって裁判員裁判の対象事件などは証拠開示のあり方が見直されたが、多くの事件は対象外で、再審事件にもルールがない。「公益の代表者」の観点はすべての事件に当てはまる。判決を機に証拠開示が進むことを期待する。

 ■布川事件の経過

 <1967年8月> 被害者の遺体発見

     <10月> 桜井昌司さんと杉山卓男さん(2015年に死去)を別事件で逮捕

     <12月> 2人を強盗殺人罪で起訴

  <70年10月> 水戸地裁土浦支部無期懲役判決

  <73年12月> 東京高裁が控訴棄却

   <78年7月> 最高裁が上告棄却、無期懲役が確定

  <96年11月> 仮釈放

<2001年12月> 2人が土浦支部に第2次再審請求

   <05年9月> 土浦支部が再審開始決定

  <09年12月> 最高裁が検察の特別抗告を棄却、再審開始が確定

   <11年5月> 再審で土浦支部が無罪判決。検察側が控訴せず、翌月確定

  <12年11月> 桜井さんが国家賠償を求めて東京地裁に提訴

   <19年5月> 東京地裁が捜査などの違法性を認め、国と県に賠償を命じる判決