「米中緊迫のさなかに 台湾へのF16売却、米国の思惑」

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以下、朝日新聞デジタル版(2019年8月17日22時36分)から。

 トランプ米政権が台湾に対し、新型のF16V戦闘機の売却に踏み切った。台湾は悲願の防衛力強化を喜ぶが、中国は相次ぐ武器供与に強く反発。貿易や香港問題でこじれた米中関係は、米国の新たな一手で、さらに険悪化しそうだ。

 トランプ政権は中国を「競争国」と位置づける一方、台湾との防衛関係強化を打ち出し、積極的な武器売却を進めてきた。米政府関係者によれば、F16V戦闘機の売却はかねて方向性が定まっていたが、最終決定がずれ込んでいた。米メディアは今回の決定の背景に、対中強硬派のボルトン米大統領補佐官の働きかけがあったと伝えている。

 決定は米中関係が最も緊張している局面で行われたとも言える。エバン・メデイロス元米国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長は米紙に「貿易交渉と香港問題への対応はより難しくなるだろう」と語った。

 ただ、売却決定はまだ、米議会側に「非公式」通知された段階だ。「公式」通知に至るまで、トランプ大統領が最重視する対中貿易交渉の交渉材料の一つに使う可能性も残っている。(ワシントン=園田耕司)

中国も難しいかじ取り
 台湾に統一を迫る中国の習近平(シーチンピン)指導部は、武力行使を放棄しない姿勢をちらつかせ、中国空軍が2017年以降、台湾本島を周回飛行する頻度を上げている。

 台湾国防部は「双方の空軍力の格差が広がっている」と危機感を募らせており、老朽化が指摘される戦闘機の更新を悲願としてきた。米国が、台湾を自らの一部と見なす中国側に配慮しつつ、中台関係の現状維持を図るよう売却する武器の種類や量、時期を調節してきたためだ。

 今回の決定は来年1月の再選をめざす蔡英文(ツァイインウェン)総統にとって、米国との関係強化を示し、対中協調姿勢をとる国民党候補を牽制(けんせい)できる格好の材料になる。蔡氏は15日にも、台北での防衛産業展示会で、F16戦闘機の模擬操縦装置に乗り、「空軍力の強化」をアピールしていた。

 一方、台湾統一を国是とする中国は黙っていない。中国は、米国が7月に台湾への戦車売却を承認した際、米企業への制裁を発表。今回も「強い反応をする」と対抗措置を示唆した。ただ、貿易交渉や香港問題で対米関係がこじれるなか、習指導部も米国とのさらなる関係悪化は望んでいない。国内の強硬派を納得させながらの難しいかじ取りになる。(香港=西本秀、北京=延与光貞)