「自衛隊の中東派遣、限られる武器使用 隊員の安全に懸念」

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以下、朝日新聞デジタル版(2019/12/27 11:21)から。

 政府は27日、中東海域への自衛隊派遣を閣議決定した。日本関係船舶の安全確保のための情報収集を目的として、来年2月上旬にも護衛艦1隻を派遣する方針だ。派遣の目的や自衛隊員の安全確保など、懸念を解消するための議論が尽くされないまま、政府は派遣に踏み切った。

 中東ホルムズ海峡周辺では、米国がイラン産原油の全面禁輸措置を始めた今年5月以降、石油タンカーなどが攻撃を受ける事案が続発した。米国は7月、船舶の安全を確保するためとして、「有志連合」構想・海洋安全保障イニシアチブへの参加を日本にも要請。日本政府は米国の要請を踏まえつつ友好関係にあるイランに配慮するため、米主導の枠組みとは異なる、独自の派遣を決めた。

 政府は同日午前、国家安全保障会議(NSC)の9大臣会合で派遣方針を確認した上で閣議決定した。これを受け、河野太郎防衛相は同日、自衛隊に対して準備指示を出した。

 閣議決定では、活動の「歯止め」として、派遣期限を1年間と区切り、延長の際は再度閣議決定した上で国会に活動内容を報告することを盛り込んだ。護衛艦1隻と、海賊対処のためソマリア沖に派遣中のP3C哨戒機を充て、隊員約260人が活動する。P3C哨戒機は、来年1月中に活動を始める方向だ。

 自衛隊が活動する海域は、「オマーン湾」や「アラビア海北部」「バブルマンデブ海峡東側のアデン湾」の3海域の公海。政府は、不測の事態などが生じれば、日本関係船舶を防護できる海上警備行動へ切り替えるとしている。イランへの配慮などから、ホルムズ海峡やペルシャ湾は活動海域から外した。一方、米主導の「有志連合」には加わらないが、米軍との情報共有は進めていく考えだ。

 今回の派遣をめぐっては、与党内からも懸念の声が上がっていた。

 政府は防衛省設置法に基づく「調査・研究」を派遣の法的な根拠としている。ただ、「調査・研究」名目での活動では、人に危害を与える可能性のある武器使用は「正当防衛」と「緊急避難」に限られるなど、専守防衛を定めた憲法との関係で活動に制約が多い。

 また、訓練期間が限られており、不測の事案への対応を不安視する声が自衛隊内部にある。さらに、米国と情報共有することで「事実上の一体化」とみなされ、隊員の危険性が増す可能性もある。

 菅義偉官房長官は27日午前の記者会見で「中東地域で緊張が高まっている状況を踏まえれば、日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集体制を強化することが必要」と意義を強調。「調査・研究」名目での派遣については「国民の権利及び義務に関わらない行為で実力の行使を伴うようなものではない」と説明した。

 6月にはホルムズ海峡付近で日本の海運会社が運航するタンカーなど2隻が攻撃されたが、ホルムズ海峡付近は今回の派遣海域には含まれていない。

 また、6月の事件以降、今回の派遣海域で日本関係船舶の被害は発生していない。このため、米国とイランのはざまで決めた今回の派遣は、そもそも何のためなのか目的があいまいだとの指摘もある。

 閣議決定を受け、自民党森山裕立憲民主党安住淳国会対策委員長は国会内で会談し、来月17日に衆院安全保障委員会を開くことを決めた。参院でも同日に外交防衛委員会を開く方向で調整する。(山下龍一)

根拠は「調査・研究」
 自衛隊の海外派遣をめぐっては、これまでも国内で議論がされてきた。

 専守防衛の組織である自衛隊は戦後、訓練や親善を除いた海外派遣は行ってこなかった。

 転機となったのは、イラククウェート侵攻を受けた1991年の湾岸戦争だ。日本は米国中心の多国籍軍自衛隊を派遣せず、戦費130億ドルを負担したが、米国内では批判が出た。

 日本は湾岸戦争の停戦合意後の同年4月、海自の機雷掃海部隊を自衛隊初の海外任務としてペルシャ湾に派遣した。専守防衛の枠を超えるとの批判に、政府は停戦合意後で武力行使が目的ではないと主張。自衛隊法の機雷除去の任務を根拠に派遣した。

 90年代は「国際貢献」を旗印にした海外派遣が増加した。92年には国連平和維持活動(PKO)協力法が成立。初のPKO派遣となったカンボジアでは日本人の国連選挙監視ボランティアと文民警察官が犠牲になった。

 2001年の米同時多発テロ後は、米国の対テロ戦争への協力で海外派遣に拍車がかかった。

 小泉政権は01年、テロ対策特措法を成立させて、海自をインド洋に派遣して米空母に給油した。03年のイラク復興支援特措法では、イラクサマワの現地に陸自などを派遣し、復興支援にあたらせたが、活動地域が「非戦闘地域」にあたるのかが問題となった。

 15年の安全保障関連法成立は、自衛隊の海外派遣をさらに拡大させるものだ。後方支援の対象は米軍以外に広がり、活動範囲に地理的制限がなくなったことで、地球規模での活動が可能になった。ただ、今回の中東派遣は安保関連法ではなく、防衛省設置法に基づく「調査・研究」が根拠だ。

これまでの主な自衛隊の海外派遣
91年4月 湾岸戦争の停戦合意後、自衛隊初の海外任務として海自掃海部隊をペルシャ湾に派遣

92年9月 停戦監視でカンボジアにPKO派遣

01年9月 米同時多発テロ

  12月 米軍などにインド洋で給油活動

03年3月 イラク戦争勃発

04年1月 イラクサマワに給水や医療支援で派遣

09年3月 ソマリア沖・アデン湾に海賊対処の艦艇を派遣

12年1月 南スーダン独立支援でPKO派遣