「逆風の「わがまちの憲法」 背景に自民冊子と日本会議」

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以下、朝日新聞デジタル版(2019/12/30 12:00)から。

自治基本条例をめぐる動き
 地方分権の夢とともに2000年代から全国約400の自治体でつくられた「自治基本条例」に逆風が吹いている。「わがまちの憲法」とも呼ばれるが、「国家の否定につながる」などと保守系が問題視。今月には沖縄県石垣市議会で条例の廃止が提案された。研究者らによると、全国で初めての動きとみられる。

 「不要なもの。ある特定の思想信条に染まった方が市政運営にアクセスする」。16日、石垣市議会に条例の廃止案を提出した自民所属の石垣亨市議は、こう言った。

 採決では、自民と中立会派1人の計10人が賛成したが、野党会派を中心に計11人が反対に回り、1票差で否決された。野党市議は「まさか本当に提案するとは」とため息をついた。

 条例は2009年に策定された。市、市議会、市民の役割などを記した15章で構成。有権者の4分の1以上の署名で住民投票の実施を義務づけた、常設の住民投票制度を明記したことが特徴だ。

 提案した市議らは否定しているが、この住民投票の規定が条例廃止の真の狙いだったとみられている。石垣市では15年以降、陸上自衛隊の配備計画について市論が二分。住民投票による意思表示をめぐって、つばぜり合いが続いてきた経緯がある。

 住民投票を求める住民らは昨年、地方自治法の手続きで署名を集め始めた。ところが、市議会は否決。そこでこの住民らが打ち出したのが、議会の議決が不要な、条例による住民投票だった。

 署名数は条例が規定する「有権者の4分の1」を超え、住民らは投票実施を市長に要請。市長が拒否したため、投票実施を求める行政訴訟に持ち込まれている。

日本会議」連動も
 こうした混乱を背景に「条例廃止」が浮上したのだが、憲法改正などに取り組む全国組織「日本会議」との連動も見逃せない。11月には、この問題で共闘する市民団体の会長が来島。自民会派の市議らを前に「条例は百害あって一利なし」と訴えたという。

 日本会議神奈川の幹部で、条例に詳しい木上(きがみ)和高氏は石垣市議会での採決の意義をこう語る。「国防に対する住民投票など、条例制定で何が起きるのか、広く理解されるきっかけになった」

 木上氏が抱く懸念は多々ある。①「住民」の定義があいまいで、外国人や「プロ市民(活動家)」らが行政に入り込む②住民投票の尊重などを掲げ、行政・議会による地方自治が破壊される③住民投票ポピュリズムに陥りやすく、誤った行政判断に帰着しかねない④住民投票を通じて、一自治体が国防を揺るがしかねない……。

 そして、木上氏はこう結ぶ。「つまり、自治基本条例とは、議会で多数をとれない勢力が、政策決定権に直接アクセスし、行政を動かす巧妙な仕掛けだ」

 一方、条例の推進側にとっても、石垣の動きは驚きだった。自治労シンクタンク地方自治総合研究所の辻山幸宣(たかのぶ)前所長は「これまでは制定阻止。今ある条例を引きずり下ろそうとは、だいぶ過激になってきた」と話す。

きっかけは、自民の冊子
 地方分権一括法が施行された2000年の前後、地方では夢が語られた。「国と対等になるのだから『まちの憲法』が必要だ」。左も右もなく、山田宏参院議員(自民)が区長だった東京都杉並区などでも作られた。

 これまでに「条例」をつくった自治体は377。「まちづくり条例」「市民参画条例」「行政基本条例」「自治憲章条例」などと、名前もさまざま。どこで潮目は変わったのか。

 関係者がそろって挙げる冊子がある。11年夏、野党時代の自民党がつくった「チョット待て!! 自治基本条例」だ。「国家の否定が根底にある」と条例を非難。冊子は反対派のテキストになって、運動は広がった。最近は今年1、昨年2、一昨年5。条例施行数は極端に減った。

 時の流れに遅れまいと、議論がおろそかなまま制定した自治体もあり、もともとあった「対立の素地」が噴き出したと辻山氏は考える。「逆風だが、議論が活発な今こそ、それぞれのまちで条例の中身をとことん話し合う、よい機会を得たととらえたい」

 地方分権一括法の施行から来年で20年。「わがまちの憲法」も踏んばりどころだ。(伊藤和行編集委員・藤生明)