以下、朝日新聞デジタル版(2018年12月31日07時41分)から。
本来は禁止されているはずの補助金受給企業から政治団体への献金の多くが、各府省庁の判断によって、制限の対象外とされていた。国との関係を強化しようとする企業の献金を防ぐための制限だが、骨抜き状態になっている。(宮野拓也、矢崎慶一)
補助金受給企業からの献金をめぐっては、2015年に安倍晋三首相ら複数の閣僚や、民主党代表(当時)の岡田克也氏らが代表を務める政党支部が献金を受けていたことが相次いで判明し、国会でも問題となった。どの補助金が制限の対象なのか、そうでないのか、判断しづらいといった指摘もあり、総務省が同年、制限の例外となる補助金についてガイドラインを作った。
ガイドラインでは、補助金の目的が「試験研究・調査」「災害復旧」の場合のほか、事業を行うことによって生じた損失を補塡(ほてん)するなど「その他性質上利益を伴わないもの」の3種類に補助金を分類し、受給しても献金の制限が適用されないとした。
国が企業などに直接交付した補助金の数(17年度)について朝日新聞が18府省庁に問い合わせたところ、全体で計1121(一部の省は概数)あり、そのうち献金が制限される補助金は82だった=円グラフ。
献金が制限される補助金の数は、農林水産省が54、国土交通省が10、文部科学省9など。内閣府や総務省、環境省など13府省庁は0だった。各府省庁は、総務省のガイドラインに沿って仕分けした、と説明している。
政治資金規正法の規定では、政治献金をすると違法の恐れがある補助金でも、企業ではなく役員など個人による献金は制限されていない。そのため、取材に対して「個人に切り替えて献金した」と話す企業も複数あった。
また、国からの補助金でも地方自治体が交付を決定した場合は、国会議員に関係する政治団体などへの献金は制限の対象外とみなされる。農水省から交付されていたバイオマス関連の補助金は、17年度までは献金制限の対象だったが、18年度から補助金の交付団体が都道府県に移ったため、制限の対象から外れている。
国から交付金が出ている産業技術総合研究所や科学技術振興機構などの国立研究開発法人は、大学や企業と提携して行う研究やベンチャー企業に出資をしている。こうした出資を受けた企業が、政治団体に献金することも制限されていない。
政治団体側「企業に注意しているが漏れるケースも」
政治団体側は、違反する献金と知りながら受けてはならない。制限に違反した場合、罰則は3年以下の禁錮か50万円以下の罰金とされている。2017年に違法の恐れのある献金を受けた政治団体は、朝日新聞の取材に「返金」や「返金予定」などと回答した。各団体とも、献金した企業が補助金を受給していたことを認識していなかったと説明している。
衆院の武井俊輔氏(自民)が代表の「自民党宮崎県第1選挙区支部」は、献金制限がある補助金を受給していたホテルから12万円の献金を受けた。補助金は、インバウンド関連の支援事業だった。同支部の会計担当者は「献金してもらう企業には補助金と献金についての注意はしているが、漏れるケースも出てしまう」と話す。
献金が制限される補助金100万円を受けながら20万円の献金をしていた大手旅行会社の広報担当者は「補助金を申請する部署と献金を行っている部署との連携不足が原因。制限を受けるということは認識したが伝達ができていなかった」。群馬県内の自民党の政党支部に12万円を献金したホテルは「受けた補助金は(地元業界の)組合から頼まれて参加した。献金がだめといった話はなかった」と話した。
11団体に献金していた企業が受けた補助金は、農林水産省か国土交通省からのものがほとんどを占めた。最高額は水産施設の工場改修などにあてる約1億5千万円(費用の2分の1)、最低額は、水田だった場所を有効活用するための3万8千円だった。
各府省庁の政治献金の制限を受ける補助金の数(カッコ内は、直接企業・法人に交付する補助金の総数。2017年度分、一部は概数)
農林水産省 54(333)
国土交通省 10(110)
文部科学省 9(110)
厚生労働省 7(285)
経済産業省 2(150)
他13府省庁の合計 0(133)
・自民党石川県参議院選挙区第1支部 ホテルから6万円、建設会社から6万円
・自民党鹿児島県第3選挙区支部 水産物加工販売業者から12万円