「体罰、育たぬ共感性 自律妨げ「キレやすくなることも」」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2019年1月13日09時30分)から。

 家庭とスポーツ現場における子どもへの体罰を一緒に考える今回のシリーズ。朝日新聞デジタルのアンケートでは、いずれも「するべきではない」という回答が多数を占めました。それでも、現実にはなかなかなくならない体罰。なぜ手をあげてしまうのか。子どもにはどんな影響があるのか。踏みとどまるにはどうしたらいいのでしょう。

育たぬ共感性 キレやすくも 西澤哲・山梨県立大教授

 私は虐待を受けた子どもの心理的なケアが専門です。体罰は、子どもに様々な悪影響を及ぼします。子どもが発達する時、本能的に親との間に情緒的な結びつきを築きます。これを「アタッチメント」と言います。体罰が繰り返されると、その結びつきがうまく形成されないことがあります。体罰をする親に対して、「自分を守ってくれるんだ」という安心感を持てないからです。

 アタッチメントの形成に問題があると、対人関係がうまく結べません。キレやすくなることもあります。共感性が育たず、反社会的な行動に出る危険性もあります。

 また、激しい体罰を受けて、強い無力感を体験すると、トラウマになる可能性もあります。最近の研究では、体罰や暴言が、脳を傷つけることもわかってきました。

 体罰としつけは違います。しつけは、子どもの「自律」を助けるものです。一方、体罰は痛みや恐怖によって支配するので、自律を助けるどころか、妨げになります。

 しかし、体罰を受けて育った人の中には、しつけには体罰が必要だと考える人がいます。自分の人生を肯定しようとするからではないかと私は考えています。

 体罰は、しだいに深刻化し、やめられなくなるという常習性があります。「楽だから」「手っ取り早いから」とたたくのは、親の都合です。「なぜ子どもがこんなイタズラをするのだろう」と理解しようとすることが大切です。簡単ではありませんが、それによって体罰をしない子育てはできるはずだと思います。

親になり実感 深呼吸を

 アンケートに寄せられた声の一部を紹介します。


●「親からの体罰、暴力を受けてました。今でも誰かが(体罰、暴力をするためではなくても)ただ手を大きく振り上げるとビクッとします。おそらく、この後遺症は一生の傷です」(神奈川県・10代女性)

 

●「家庭で日常的に、特に母親から体罰を受けました。母は自分の気分が優れないと、子供をたたきました。彼女自身が忙しく、自分の思う通りにならない子供に対して、しつけと題してたたきました。成人してから親に理由を尋ねた時、初めての子育てに一生懸命だった、と答えました。今自分が子育ての最中で、体罰を控えようと努力します。中学生の息子の暴言がひどくても、体罰をしてもその結果は良いものにはならないと知っているからだと思います。体罰と強制は、反感しか生じません。子供でも、言葉を使って、忍耐を持って説明すれば理解できると信じます。体罰は親や指導者の力量のなさの表現の形なのでは、と考えます」(海外・50代女性)

 

●「自らが容認・納得できる範囲で体罰を受け育ちました。体罰を受けた子供たちは問題行動が、多くは脳が……とも聞きますが、もし全く体罰を受けず育ったとしたら今より完成度の高い人間になったということでしょうか。そうは思えません」(大阪府・40代男性)

 

●「自分もされた経験から、してはならないと思ってきたけれど、いざ親となってみると難しいものだと感じます。手を出さなくても感情的に声を荒らげたりはしてしまうので、常に自戒しています。スポーツ指導者は親ではなく他人なので、より強く戒めるべきです」(神奈川県・40代女性)

 

●「20歳前後の娘がふたりいます。自分は体罰をしないと思っていましたが、長女が2歳前ごろ、コラッと叱った時に一度だけ頭を軽くたたいてしまいました。つい手が動いていた感じです。すると1時間ぐらい後、家事に忙しくしていたところに娘がやってきて、私の頭をコラッとたたきました。本当にさりげなく遊ぶように。冷や水を浴びせられたようで、忘れられない瞬間でした。連鎖という言葉が浮かび、今『私が』『たたくことを』『教えてしまった』と怖くなりました。以来、猛烈に腹が立っても深呼吸で時間をおいたり、どういう人に育ってほしいかを考えたりして切り替えています。親である私がどう育つかも教えてくれた娘に感謝しています」(福岡県・50代女性)

 

●「正当な理由なく子供に体罰をするのがよくないが、一番子供が言うことを聞き、頭に記憶として残るのが痛みだと思う。なので、体罰はやってもいいと思うが、親として限度を考えて体罰をやるべきだと思う」(東京都・10代男性)

 

●「母親が誰にも頼れずに、暴力を振るってしまうというのは防げるはずだが、実際には頼れる存在や相談できる相手がいない場合にはどうしても有り得てしまう。子供が誰でも言うことを聞いてくれるわけじゃないし、他の子と同じように成長しなかったりと比べてしまうことが不安で焦り手を出してしまうのならば、母親や夫、義父義母に子供の成長について個人差がある・比較しなくていい、焦らなくて良いと伝えるのが先ではないのかなと思う」(大阪府・20代女性)

 

●「高校の根性主義的運動部で主将もしました。でも、子育てしてわかったのは、ぶたなくても100回ぐらい言えばわかるということ。子どもの学習スピードと、大人の忍耐の差を認識することが重要だと思います。100回言えばわかるんですよ。100回言えないなら殴ったほうが早い。でも、殴るのは近代社会では違法行為だし、殴られたほうは一生忘れませんよ。体罰してる人、あなたも誰かに殴られてもよいのですか?」(東京都・40代男性)

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アンケート「子どもへの体罰、どうすれば?」をhttp://t.asahi.com/forum別ウインドウで開きますで実施中です。ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするでも募集しています。