「荒々しい首相の答弁、「不都合な事実」への反射的行動か」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2020年4月4日 19時00分)から。

取材考記
 2カ月にわたる予算委員会での攻防は、予算成立でいったん区切りを迎えた。審議で目に付いたのは「意味のない質問」とヤジを飛ばし、「非生産的」と相手をなじる安倍晋三首相の姿。それは「不都合な事実」を突きつけられたことへの反射的な行動に見えた。そして、その荒々しい言葉の裏に、首相のいらだちが感じ取れた。
 印象的な場面がある。森友学園問題に関する公文書改ざんを苦に自殺した近畿財務局職員の手記をめぐり、「私や妻が関係していれば首相も国会議員も辞める」とした自らの答弁が「改ざんのきっかけ」と指摘されたときだ。首相は「答弁がターニングポイントとは手記にはない。これ、読まれたんですか?」と逆質問を浴びせた。
 確かに手記には書かれていないが、そんな風に混ぜっ返さなければならないほど触れられたくなかったのか。手記で指示者と名指しされた元財務省理財局長は、証人喚問でも具体的証言を拒み、真相は闇の中。そのままであってほしいとでもいうのだろうか。

 
 首相による私物化が指摘される「桜を見る会」でも似たような光景があった。後援会員の「本当のことを話せばいいのに」との声が取り上げられると、首相は「失礼だ。そう(いう思い)でない方もたくさんいる」と反論しながら、けむに巻いた。
 政権に近いとされる東京高検検事長の定年を法解釈を変えて延長した問題でも同様だ。野党が「(政権の)守護神として残したかったのでは」と聞いても「ナントカの勘繰りと言わざるを得ない」と真正面から答えなかった。
 首相は疑惑の核心を突く質問への「反撃」には熱心だが、説明責任を果たそうとはしない。国会が与野党の区別なくただすのが筋。だが、証人喚問や資料公開といった疑惑の解明につながる野党の提案は、官邸の顔色をうかがう与党による門前払いが続く。
 公の権力を「私」のために使う行政府と物言えぬ立法府。首相は通算在任日数が歴代最長となり、憲政史にその名を刻んだ。だが、国民の記憶には「知らしむべからず」にも見える首相と、国権の最高機関としての責任を果たさなかった国会の姿が残るだろう。

 

 (政治部・永田大)