「「尾道の皺を撮るんだ」 大林監督が遺作に起こした奇跡」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2020年4月11日 13時50分)から。

広島市在住の門田大地さん(61)は、10日に亡くなった大林宣彦監督の最新作「海辺の映画館―キネマの玉手箱」と20年前の「マヌケ先生」にプロデューサーとして携わった。「過去は変えられないけど、映画で未来は変えられる」。黒澤明監督から引き継いだ「映画の力で世界の戦争をなくそう」というメッセージを、映画祭や現場で、繰り返し発信していたという。   
 一昨年夏にあった最新作の撮影では、広島県尾道市内で午前7時から深夜まで暑い中1カ月間、連日現場にいた。「君たちに伝えるから、よろしく頼むね」と駆けつけた映画人や出演する俳優たちに語り続けた。撮影中、大水害で尾道も水道が止まったが、「映画の力を信じて、世の中を平和にしよう」と予定通り撮影を続けた。スタジオでの撮影は東京でも撮れるものがあったと思うが、尾道にこだわった。それが奇跡を生んだ。どうしてこの体でこれだけ撮れるのか、不思議だった。
 「海辺の映画館」の製作にあたっては、「尾道で再び映画を」とお願いし続けていたところ、4年前に自宅にお願いしに行った時にようやく「そうだな……」と言ってくれた。理由はわからないけれど、虫の知らせがあったのかな、と今では思う。ロケ地巡りという言葉がない時代にロケ地巡りという文化を生み出した。尾道への愛情は生半可じゃない。まちおこし、ふるさとおこしの映画でも、きれいなところではなく「尾道の皺(しわ)を撮るんだ」と言っていた。映画の力、ふるさとを愛することは人生を豊かにすると教えてくれた。
 大林監督は「少年の心を持った映像づくりの天才」。覚悟はしていたけど、あと3本くらいは撮る、と言っていた。80歳を超えているとは思えない、新人が撮るようなできあがりを観(み)て鳥肌が立った。何でこんな巨匠なのに、斬新でみずみずしい画(え)がたくさん出てくるのか、と。感動しました。(聞き手・佐藤美鈴)