以下、朝日新聞デジタル版(2020年4月16日 22時30分
新型コロナウイルスに対する経済対策として政府が打ち出した「減収世帯への30万円給付」が一転、「国民1人10万円の給付」に変わった。世論の不満を受けた与党に押し切られる形で、安倍晋三首相が目玉政策の修正に追い込まれた。提出まぎわの補正予算案を組み替える異例の事態だ。
異例ずくめの展開だった。
「スピーディーに、国民の窮状を受け止めて政治判断が必要だ」。16日午前、公明党本部であった党の幹部会合で、山口那津男代表は緊急経済対策を見直す必要を改めて訴えた。その直前に首相と電話で協議して補正予算案の組み替えを求めたことも明らかにし、「結果を見守りたい」と語った。
同じころ、衆院では週明けに始まる予定だった補正予算案の審議日程などを協議する予算委員会の理事懇談会が、公明が出席を拒んで中止となっていた。「連立を組んでいる党のやることか」。自民内からは、そんな悲鳴が上がった。
一方、首相は山口氏との協議後、首相官邸で麻生太郎副総理兼財務相に続き、自民党の二階俊博幹事長、岸田文雄政調会長ら政権幹部と相次いで会談した。政府が経済対策の目玉に据えていた、減収世帯に30万円を給付する案に世論の反発は強く、修正を迫る公明党は一歩も引かない強硬姿勢を示していた。
首相は公明党の主張をほぼ丸のみし、麻生氏らに予算案の修正を指示。減収世帯への30万円案を主導した岸田氏は会談後、記者団に「首相から調整するよう努力しろと言われた」と、硬い表情で繰り返した。
世間との感覚のズレ? 与党内から不満
政府と一体となって予算案や法案を国会で成立させる役割を担う与党が、合意した経済対策の中身や予算案の修正を迫るのは極めて異例だ。公明党がそれでも主張を押し通した背景には、支持母体である創価学会内の強い不満があったと同党関係者は話す。
元々公明党は、1人10万円給付案を政府に求めていた。減収世帯への30万円案が固まった後も、支持者から「もらえる人が少なすぎる」「これでは選挙は戦えない」といった声が寄せられ続けた。そんな中、自民党の二階氏が14日、記者団に対し10万円の給付案について「大変強い要望が集まっている。速やかに実行に移すよう政府に強力に申し上げる」などと表明。公明党はこれを機に、一気に政府への攻勢を強めた。
自民党内でも16日、10万円給付案を評価する声が相次いだ。党本部であったコロナ対策本部の役員会後、田村憲久本部長は「一律10万円かそれ以上を配ったほうがいいと多くの意見があった」と説明した。若手議員による勉強会では「10万円給付を出来るだけ早く実現することを求めたい」(安藤裕・衆院議員)との要望が出た。
与党内からは、肝いりの経済対策が土壇場で修正を強いられた首相の求心力低下を指摘する声もじわりと広がる。
ベテラン議員は、首相が全世帯への配布を決めた「マスク2枚」や、ミュージシャンの星野源さんの楽曲「うちで踊ろう」とともにSNSに投稿した首相の動画なども合わせ、「首相ら政権中枢の世間との感覚のズレが明らかになっている」と指摘。官邸幹部は「30万円給付を推し進めた首相と岸田政調会長のメンツは丸つぶれだ」と話した。(清宮涼、安倍龍太郎)