「(大竹しのぶ まあいいか:267)なぜ今、なぜあなたが」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2020年5月22日 16時30分)から。

夏の高校野球の中止が決まった。少年たちの心はどうなるのか。命に関わることだからなぁ、と必死に涙をこらえながら説明をする先生方。小さな時から野球に全てをかけて生きてきたのに。あー、悲しいなーと、そんなことがあった同じ日にとんでもないニュースが入ってきた。
 検察庁の黒川検事長が自粛要請の中、三密の状況で賭け麻雀(マージャン)をしていたと言うのだ。本人も認めたと言うのが、この原稿を書いている時点で報道されている事実である。
 ほんの数日前まで、検察官の定年延長問題で国会や世論は沸き上がっていた。
 政府が認めれば役職定年になっても特定のポストにとどまれる特例をつくると言う、よく解(わか)らない検察庁法改正案を通そうとする内閣。野党は、今この問題を急ぎやらなければならないのかと食い下がる。それに対しのらりくらりと答弁を繰り返す政府。数年前のあの法案のように、強引に通過させてしまうのだろうか。そんな不安があった週明け、今国会では改正を断念するとの発表を聞き、安堵(あんど)した。
 あー、まだこの国も捨てたもんじゃない。声を上げれば、小さな声でも大きな山だって動かすことができるのだ。そうだ、OBである元検事総長も意見書を提出していたではないか。かなり先輩の方々が意見書を持っていく姿に勇気をもらったではないか。信じよう、民主主義のはずであるこの国の民の力を信じよう、今は自粛の時、もう少しだ、もう少しの我慢だ。みんな我慢しているのだ。それなのに……。
 検察官てなんぞや? 悪いことした人を裁判にかける人ですよね? 検察官だけが、法を犯した人間を、総理大臣さえも起訴できるんですよね? あれほど国民に呼び掛けていた三密の状況の中で法を犯す賭け麻雀をしていたなんて誰が想像できるだろう。小さな声が届いた訳ではなく、このマスコミ情報が飛び込んできたので、国会での見送りが決まったのだろうか。
 球児たちの絶望感、何十年も続いてきた地元の小さなレストランも潰れた。ライブハウスも、自粛を守って潰れている。寄付金や補助金の手続きをする人で役所には朝から晩まで人が詰めかける。事実、私の妹も朝6時半に出て帰るのは、ほぼ夜の11時だ。
 命をかけて必死で働いている病院関係者の方々、誰の面会も許されず、病院で亡くなった方もいるだろう、先行きが見えず自殺した方もいた。そんな状況の中で、悪いことを追及すべき立場の人間がなぜ、麻雀ができるのか教えて欲しい。事実を正しく報道すべき新聞社の方がなぜ? 怒りを通り越してなんだか恐怖さえ感じてしまった。それでも、小さき声をあげてゆきたい。