「原爆投下の正当性、若い世代は 米学者が語る変化の兆し」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2020年8月8日 13時00分)から。

原爆投下は第2次世界大戦の終結を早めた――。米国内の通説に対し、「日本への原爆投下は必要なかった」とする著書『原爆投下決断の内幕』を25年前に出版した米国の歴史学者、ガー・アルペロビッツ氏(84)は現在も、核兵器について積極的な発言を続けている。核兵器廃絶への道のりは遠いままだが、米国では若者を中心に変化の兆しも見られると言う。広島・長崎への原爆投下75年を前に、ウェブ会議システムで話を聞いた。
 ――米ニューメキシコ州で世界初の核実験が行われてから75年を迎えた7月16日、トランプ米大統領は実験を「偉業」と称賛し、「第2次世界大戦の終結に寄与した」「核抑止力は米国や同盟国に大きな利益をもたらした」とする声明を出しました。
 「トランプ政権下で軍拡競争は再び、制御不能に陥ろうとしています。世界中で核戦力は増強されており、過去75年間で核兵器が使われなかったことは幸運に過ぎません。事故や危うい指導者の過ちで、大量破壊が起きる可能性が非常に現実味を帯びています」
 ――1995年の著書で、日本への原爆投下は軍事的に必要なかったと指摘しました。
 「私の史料研究では、後に大統領になるアイゼンハワー・欧州戦線最高司令官を含めて多くの軍高官は、原爆の使用は全く不必要だったと公言しています。そんななか、戦後のソ連の覇権を懸念するバーンズ国務長官が外交的な理由から、トルーマン大統領に原爆の使用を進言したのだと、指摘してきました。これは原爆は戦争終結に必要だったという伝統的な学説に反し、激しい非難を浴びました」
 ――それから四半世紀が経ち、米社会は変わりましたか。
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 「オバマ前大統領が16年に広島を訪問した前年の世論調査では、原爆の使用は正当だったと答える人が、まだ半数以上いました。しかし、若い世代ほど投下を正当化できないと考える人が多くなっていました。その傾向は今、さらに強まっていると感じています」
 ――日本のNHKが今年、日米の若い世代を対象に行ったアンケートでは、米国人の約7割が「核兵器は必要ない」と答えました。どうしてだと思いますか。
 「まず、第2次世界大戦を経験した退役軍人の多くが亡くなっています。さらに、イラクアフガニスタンなどの経験を経て戦争一般への嫌悪感が強まっています。若い世代は今の政治指導者にも、懐疑的です。また、教育の変化もあります。地域や教員にもよりますが、大学教員らは以前よりも原爆使用について両面を語るようになっていると思います。原爆投下をめぐって、いまだに論争はありますが、以前よりもずっと開かれた議論が出来るようになっています」
 「一方、最近も保守系のFOXニュースのキャスターが、原爆投下までの過程をミステリー小説のようなタッチで描いた本を出版し、人気を集めました。原爆使用の正当性に疑問を示さず、そうした問い自体が存在しないかのようでした」
 ――米ロ間に残る唯一の核軍縮条約、新戦略兵器削減条約(新START)の期限が来年2月に切れます。交渉は難航し、失効の懸念が強まっています。
 「米政府はあまりにも長い間、核兵器に依存してきました。75年の節目は歴史に学び、核兵器が二度と使われないように軍備管理のあり方を真剣に考える契機とすべきです。残念ながら米国内では核兵器の開発に強い反対運動がみられませんが、『ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)』や気候変動の運動のように、若い世代を中心に市民的な議論や行動が起こることを願っています。広島、長崎は今、過去ではなく、未来の問題です」(ワシントン=渡辺丘)