「かけ声ばかりの戦略 アベノミクスの恩恵、地域のどこに」

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以下、朝日新聞デジタル版(2020/9/5 9:00)から。

守和彦さん
 「3本の矢」など安倍政権の象徴だったアベノミクス。景気拡大は戦後2番目の長さだったとされるが、実感はひと様々でその本質はみえづらい。北海道中小企業家同友会代表理事の守和彦さんは、地方の中小企業にとっては効果が薄く、期待を裏切られ続けたと批判する。

 安倍晋三首相が退陣を表明しましたが、その看板政策であったアベノミクスも、中小企業、とりわけ北海道の中小企業の立場でいわせてもらえば、これが良かったということが見当たりません。

 「3本の矢」といわれましたが、中小企業に重要なのは成長戦略でした。しかし、かけ声ばかりで、具体的にどんな戦略が立てられたのでしょう、分かりません。

 全国に成長の果実を行き渡らせるとされたトリクルダウンについても、そうした現象は感じられませんでした。アベノミクスのスタートの段階から期待が裏切られました。

 むしろアベノミクスの7年間、北海道経済は沈下する一方でした。総人口は7年間で約20万人も減ってしまいました。過疎化や人口流出によって、ものを売ったりサービスで稼いだりする市場が縮小していったのです。この結果、コロナ禍が始まる前の段階でも、域内のGDPは国全体と比べ見劣りしています。

 売り上げで厳しいところに、安倍さんは最低賃金を上げろと旗を振られた。この7年の間で、142円アップしましたから、デフレ克服などには意味があるのかもしれませんが、経営者にとっては厳しい圧力でした。

 将来に希望が持てないからでしょう。企業の休廃業や解散が増えています。帝国データバンク札幌支店の調査によると、2019年、北海道の休廃業・解散件数は1310件、前年比4・4%も増えました。3年ぶりの増加だそうです。企業数に占める休廃業や解散の比率は北海道は全国で格段に高くなっています。

 だから改めてお聞きしたい。アベノミクスの恩恵を津々浦々にとおっしゃっていたが、一体どこのことなのか。

 中小企業は、地域の住民生活を支える身近なインフラです。こうした企業がなくなれば、生活環境も窮屈になり、更に人口が減っていく。仕事が少なくなって企業がもっと減る。こんな悪循環が7年間、いっこうに改まらないのです。

 そうしたぎりぎりの状況でやっているところにコロナがやってきました。

 従来の不況とおよそ形の違う苦しみになっています。なるほど今は金融機関の支援で倒産こそ少ないですが、いつまでも借金に頼れません。先行きを不安視して経営意欲がなえてしまう経営者が続出しないか懸念しています。

 アベノミクスの採点は困難です。アドバルーンは何度も上がったが、皆、消えました。中小企業は期待を裏切られた思いのことばかりです。

 でも忘れないで下さい。中小企業は北海道で労働者の83・5%、全国で約7割を雇用しています。それを忘れたら地域を潰してしまう。もっと地に足のついた、中小企業が明日に期待の持てる政策を望んでいます。(編集委員・駒野剛)

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 1943年生まれ。62年に父親が経営する靴製造卸会社ダテハキ(本社・札幌市)に入り、社長を経て2009年から会長。03年から現職。