「第1回「二つの米国」のある街で 月500ドルの部屋を借りた」

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以下、朝日新聞デジタル版(2020/9/20 18:00)から。

 白人とマイノリティー。富める者と貧しい者。都市と地方。共和党支持者と民主党支持者――。かつてないほど分断が進むアメリカは、どこへ向かうのか。大統領選挙の激戦州ペンシルベニア州の街ヨークで、「二つのアメリカ」の境界線上にある場所を見つけた。この地に住みながら、足元からこの国の行方を探ってみた。(敬称略)

 初めて訪れたとき、「まさに探していた場所だ」と直感した。

 ここは、ペンシルベニア州南部の街ヨーク。中心部から少し外れたところにある住宅街で、古いタウンハウスが並んでいる。タウンハウスはアメリカの都市部にある集合住宅の一種で、家と家同士が横につながっている長屋のような建物だ。

 ワシントンから車で1時間半の距離にあるこの街を訪れたのは、部屋探しのためだった。今年は大統領選挙がある重要な年だが、コロナ禍で在宅勤務が続く。出張も移動の感染リスクが伴い、慎重にならざるを得ない。ならば、と発想を転換して「取材の現場で在宅勤務をしてみよう」と考えたのだ。ペンシルベニア州は大統領選挙の勝敗を左右する「バトルグラウンド・ステイツ(激戦州)」の一つだ。

 目の前のタウンハウスは明日、内覧させてもらう予定になっていたが、前日のうちに一度下見に来てみた。それには理由があった。

 内覧を申し込んだとき、家主から「ここがシティーだということはわかっていますよね」と念押しされていたからだ。「いま街中の宿に宿泊しているから、だいたい様子はわかっています」。そう答えたものの、電話を切った後に少しばかり不安になった。

 シティー、つまり市街地にあるということがなぜ問題なのか。そこにはアメリカ独特の都市事情がある。

 日本の感覚でいえば市街地の方がにぎわっていて生活も便利そうだが、車社会の米国の場合、その反対の都市が少なくない。1950年代以降、白人の中高所得層がよりよい住環境を求めて郊外に出て行く「ホワイト・フライト」と呼ばれる動きが加速した。低所得者層だけが残った中心部は商店街もさびれ、治安が悪化していった。「インナーシティー問題」と言われる現象で、ヨークもそうした、全米各地にある中心部が衰退した街の一つだ。

 家主からの電話の後に住所を地図で確認すると、宿泊している宿からは歩いて20分程度だ。土地勘のない街では、日が暮れたら歩かないのが鉄則だが、日没まではあと1時間ほどあったので、歩いて下見をすることにしたのだった。

 道の両側には、古いタウンハウスが並んでいる。この街には空き家が多い荒れ果てた地域もあるが、ここは古くても生活感がある。家族や近所の住民同士で、玄関先で夕涼みをしている人たちの姿が目につく。街にはアジア系がほとんどいないからだろうか、時折視線を感じる。

 めざす家は、市街地の南端にあった。アメリカでは、道路で囲まれた1区画を「ブロック」という単位で呼ぶ。この家があるブロックまでが、古いタウンハウスが並ぶ。もう一つ先のブロックに目をやると、こちら側とは一見して異なるたたずまいだ。街路樹の緑が豊かで、タウンハウスではなく庭付きの一軒家が並ぶ。

 「あちら側」に足を踏み入れてみた。

(後略)

 (ペンシルベニア州ヨーク=大島隆)