「「医療崩壊しないと伝わらないのか」 岩田教授の警鐘」

f:id:amamu:20051228113104j:plain

以下、朝日新聞デジタル版(2021/1/3 16:19)から。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県の知事が緊急事態宣言を出すように政府に要請し、官邸側の判断が注目されている。感染症内科医の岩田健太郎・神戸大大学院教授は、「政府はずっとポイントを無視してきた」とこれまでの対応を批判しつつ、緊急事態宣言については慎重な姿勢だ。3日に考えを聞いた。

 ――緊急事態宣言が必要な事態になっていると考えますか。

 「宣言」は他の方法が一切通用しなくなった時の最後の手段だ。

 そうでない対応の仕方はあると思う。効果さえ出れば何でもいい。「感染者を減らす」ということが一番大事だ。

 だが、7月以降の日本政府は、このポイントをずっと無視してきた。「若者中心で」「繁華街中心で」「無症状の人が多く」「重症者は増えていない」「死者は増えていない」「医療は逼迫(ひっぱく)していない」と言い続けた。

 基本に戻り、感染者を減らす対策を打つ必要がある。減らなければもっと強める。減っていないのに対策の現状維持はあり得ない。

 今のままでいくと、どこかで緊急事態宣言という刀を振らなければならなくなるが、その前にもっと強い手を打つべきだと個人的には思っている。

 ――強い手とは?

 宣言を「出す」ための条件を提示すべきだ。「ここを超えたら緊急事態宣言を出しますから今、頑張ってください。さもなければ出しますよ」と。

 本当は11月下旬からの「勝負の3週間」のタイミングで出せればよかったが、そこまで作戦が上手ではなかった。政府に本気でやるという印象がまったくない。

 ――勝負の3週間の後は「急所」を押さえるというメッセージだったが、それもできていないという評価ですか。

 政府のコロナ対策分科会はメッセージの出し方が上手ではなかった。疫学的なデータから「ここが重点である」という論理で攻めたと思うが、かえってわかりにくくなってしまった。

 シンプルに「家から出るな」とか、「忘年会は行くな」というメッセージを出せばよかった。だが、「帰省は慎重に判断を」では伝わらない。

 首相が涙を流してでも家にいてくれと言えばよかった。それをする覚悟ができていない。

 僕らが12月の半ば、「病院は大変なことになっているぞ」と思っている時に、政治家たちは忘年会を企画していた。それぐらいのんきだった。逆説的だが、医療が一回壊れてみないと伝わらないのかと絶望的な気分でいる。

 ――兵庫県も医療にかなりの負荷がかかっていますか。

 病院は今、飽和状態になっていて、ある意味の定常状態だ。患者を紹介されても、「入院は受けられませんよ」とお断りすることも珍しくない。

 コロナの病床を増やせと言われて増やすと、ICU(集中治療室)の他の病気のベッドが減る。そうするとケガ人や、冬場で増えている心筋梗塞(こうそく)などの心臓の病気の患者さんを基幹病院が断って行き場が無くなる。

 新型コロナの患者さんでも、高齢者で息が苦しいと訴えていても受け入れ病院がありません、というのが現状になっている。そうやってぽつりぽつりと苦しむ人が増えている。

 医療崩壊は、医師や看護師が疲れてということではないし、医療従事者のために崩壊を阻止するということではない。結局崩壊して一番苦しむのは患者さん。その理解が広がっていない。危機感を醸成できれば、緊急事態宣言は回避できると思う。

 ――回避できなかった場合、どのような形で「宣言」を出すのがいいのでしょうか。

 万策尽きるちょっと前には始めた方が傷は小さく済む。遅れれば遅れるほど規模を大きくしなければならない。関東圏だけなど小さな規模でできるだけ強制力に近いような強い形でメッセージを出し、短い範囲でやる。春先の緊急事態宣言は全部その逆だった。遅かったし広かったし、長かった。(聞き手・月舘彩子)