「(社説)総務官僚接待 幹部留任で深まる不信」

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以下、朝日新聞デジタル版(2021/3/2 5:00)から。

 総務省の官僚だった時に東北新社から高額接待を受けた山田真貴子内閣広報官が辞職した。

 体調不良が理由というが、そうでなくても政府広報の責任者が務まる状況ではなく、遅きに失したと言うほかない。問題発覚後も留任させた菅首相の判断の誤りは明らかで、国民と政権との溝を深める結果となった。

 同様のことが武田良太総務相についてもいえる。

 現役の総務官僚では、事務次官に次ぐポストの総務審議官をはじめ、11人が減給などの処分を受けた。ところが武田氏はそのほとんどを現職に留め置き、岐路にある放送行政を引き続き担当させると表明した。

 国民の知る権利や放送の自由とも密接に関わる仕事であり、とうてい納得できない。

 接待を受けた官僚らは当初、「相手が利害関係者と思わなかった」と弁明した。しかし衛星放送の将来像を検討する同省の有識者会議には、東北新社の関係者が要職を務める業界団体が参加していた。昨秋の会議では人工衛星の運用会社に支払う料金などの固定費の重さを訴え、負担軽減を求めている。

 接待を受けた官僚らも、時期や回数に違いはあるが多くがこの会議に出席。料金引き下げに向けて「総務省においても必要な対応を行う」などとする報告書案を事務局としてまとめ、昨年12月の会議に提出した。

 見直しに相応の正当性があるとしても、組織が接待漬けの状態にあるなかで、この案が作られたことは明らかだ。一般の目から見て職務執行の公正さに疑問が持たれるのは当然だ。

 武田総務相は、接待が行政に影響を与えたかどうか、副大臣の下に委員会を設けて検証すると述べた。少なくともその結果が出るまでは、処分を受けた者は放送に関する業務から外すべきだ。「影響はなかった」との結論ありきで留任を決めたのではないか。そんな疑念も招きかねず、行政不信に歯止めがかからなくなる。

 旧大蔵官僚らの接待汚職を受けてつくられた国家公務員倫理法の目的は「公務に対する国民の信頼」の確保にある。武田氏は制定に至る経緯と法の精神を思い起こす必要がある。

 総務省はNHK改革という重要課題も抱える。NHKはBSチャンネルの削減を予定しており、空く帯域の利用方法は衛星放送事業者の関心事の一つだ。衛星運用会社の中にはNHKが約50%を出資している企業もあり、NHKは料金の低減問題とも密接な関わりをもつ。

 各方面に大きな影響が及ぶ政策を違法な接待に応じた官僚に担わせる。そのことの是非を、政権はよくよく考えるべきだ。