「大阪IR、役所優位崩れる? 規模・時期めぐり譲歩」

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以下、朝日新聞デジタル版(2021/3/5 17:00)から。

 大阪府・市は夢洲(ゆめしま)地区に誘致を目指すIR(カジノを含む統合型リゾート)の全面開業時期を白紙に戻した。整備を終える期限が切れなかったのはコロナ禍で経営が苦しい事業者に配慮せざるを得ないためで、役所優位のパワーバランスが変わったとの指摘がある。来場者の見通しも不透明になり、鉄道各社の延伸投資にも影響が出そうだ。

 IRはカジノ施設に大規模な展示施設や国際会議場、宿泊施設、商業施設などを組み合わせたもの。もともと大阪府市は訪日客の増加を見込んで、国の要件を大きく上回る施設を2025年の大阪・関西万博にあわせて全面開業させる構想だった。

 しかし、2月に修正した実施方針案では20年代後半の部分開業を認め、展示施設の当初規模を国の要件に合わせて下げた。全面開業時の5分の1の「2万平方メートル以上」でOKとしたが、隣の咲洲(さきしま)にある「インテックス大阪」の3分の1にも満たない規模だ。

 宿泊施設も当面は国の要件の「客室が10万平方メートル以上」(2千~2500室規模)で、目指す「3千室以上」は許された事業期間(35年)内に達成すれば良いとした。延期を繰り返してきた全面開業の時期はついに白紙に戻った。

 大阪のIRに唯一、手を挙げる事業者は米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの連合体。方針案の修正は「コロナ禍で双方の協議が滞った」ためとされるが、実際は事業者側の経営悪化も大きい。

 米MGMが今月10日(現地時間)に発表した20年決算の売上高は、コロナ禍で海外カジノの客が減少するなど約52億ドルと前年比6割減で「ビジネスモデルは非常に厳しい環境」(松井一郎大阪市長)だ。

 横浜市のIR誘致では、参入に前向きだったラスベガス・サンズ、ウィン・リゾーツの2社が相次いで撤退した。IRに詳しい三井住友トラスト基礎研究所の大谷咲太主任研究員は「コロナ禍で大規模な出資のリスクがより高まった一方、大阪府市の交渉相手は一つだけ。パワーバランスが変わり、事業者に自由度を与えざるを得ない状況だ」と話す。夢洲までの大阪メトロ中央線の延伸費用の一部202億円を事業者が負担する案も、府市側が譲歩を迫られる可能性がある。

 開業時の規模縮小が認められたことで、これまではじいていた延べ2480万人の年間来場者、年7600億円(近畿圏)の経済波及効果は当初は目減りしてスタートする公算が大きい。IRの収益の大部分を担うカジノの規模もIRの延べ床総面積の3%以内の基準があり、MGM側のもうけも薄くなる。

 MGM側は方針案に基づいて事業計画をまとめ、今夏に提出するが、部分開業が20年代後半のいつなのか、どのぐらいの規模からスタートして、いつ投資を終えるのかに関係者の注目が集まる。

 京阪ホールディングス(HD)は、IRの開業に向けて中之島線中之島駅から大阪メトロ中央線九条駅(いずれも大阪市)までの約2・7キロを延伸し、夢洲まで路線をつなげる計画を検討する。幹部は「一部開業で採算が見込めないと判断したら、延伸はやらない」と慎重な姿勢だ。

 近鉄グループHDも奈良から夢洲に直通列車を走らせる計画で、大阪メトロの線路も走れる車両の技術開発を進めるが、「全面開業の方向性がはっきり見えなければ、事業化するのは難しい」(幹部)と話す。(松田史朗、神山純一)