「(社説)熱海の土石流 人災の疑い究明求める」

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以下、朝日新聞デジタル版(2021/7/17 5:00)から。

 静岡県熱海市で大規模な土石流が発生して、きょうで2週間になる。起点周辺の盛り土が被害を大きくした可能性があり、人災の疑いも出ている。責任の所在を明らかにして、再発防止につなげねばならない。

 現場の土地は神奈川県の不動産会社が06年に取得し、同社は翌年、静岡県土採取等規制条例に基づく施工計画を市に届け出た。その後の経緯から多くの疑問点が浮かんでくる。

 ひとつは、盛り土の高さが基準の3倍超の約50メートルにのぼっていたと推定されることだ。これだけの規模の変更が無届けでされていたことに、行政はなぜ気づかなかったのか。

 現場には産業廃棄物も持ち込まれていた。県や市は是正指導や土砂搬入の中止を要請したというが、その後の撤去状況など不明な点が少なくない。ほかにも、崩落を防ぐ土堰堤(えんてい)が計画通りに造られていなかった可能性も出ている。

 多くの非違行為の見過ごしが今回の災厄の一因だとしたら、行政の責任は重い。この会社の別の造成地で崩落が起きたことが、07年に市議会で問題になっている。状況を把握し、対処する糸口はあったはずだ。

 土地の所有者は11年に変わっている。誰が、いつ、どの程度の土を持ち込んだかをはっきりさせることが解明の第一歩だ。県は検証チームを設け、土石流の発生原因と行政対応の妥当性の2点について調べるという。庁外の専門家らも入れ、徹底して取り組むことを求める。

 映像や近隣住民の証言を幅広く集め、盛り土をした当事者や現在の所有者に事実をただす。県と市がなぜ適切に行動できなかったか、関係する職員から事情を聴くことも不可欠だ。

 これを機に盛り土の管理のあり方全般を見直す必要もある。

 一口に盛り土といっても、宅地造成等規制法の対象となり、業者に擁壁や排水施設の設置が義務づけられるものもあれば、熱海の現場のように宅地造成が目的ではなく、そうした取り決めのない箇所もある。

 国土交通省によると、全国には「大規模盛土造成地」が約5万カ所あるが、面積が3千平方メートル未満などになると把握できていない。農林水産省環境省とも連携して実態調査を進め、危険な場所の洗い出しを急ぎ、業者に対する指導や住民への注意喚起に努めてほしい。法律でどこまで規制し、何を条例に委ねるか、法体系のあり方も検討課題となろう。

 熱海市では今も捜索が続き、約500人が避難生活を送る。原因究明を進めつつ、国、自治体が一体となって被災者の生活再建に力を尽くすべきだ。