「入院制限、広がる波紋 都内の自宅療養者はすでに最多」

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以下、朝日新聞デジタル版(2021/8/4 21:00)から。

 政府が打ち出した新型コロナウイルス感染者の急増地域での「入院制限」の新方針をめぐり、波紋が広がっている。国会では批判が相次ぎ、与党議員からも撤回を求める声が上がった。自治体も対応に追われている。

 4日午後、自民党本部で開かれた新型コロナウイルス感染症対策本部とワクチン対策プロジェクトチーム(PT)の合同会議。

 「聞いていない!」。出席議員からは政府の新方針への不満が噴き出し、撤回を求めることが決まった。

 会合後、ワクチンPTの古川俊治事務局長は「(方針を)出すまで一切党の方にも相談はなかった。自治体、医師会にも全く相談なく、官邸で決めたことだ」と批判。「大きな間違いで混乱を招いた。政調会長から撤回を申し入れる」と記者団に語った。

 この日は午前の衆院厚生労働委員会で開かれた閉会中審査でも、公明党の高木美智代氏が「酸素吸入が必要な中等症の患者を自宅でみることはありえない。撤回も含めて検討していただきたい」と田村憲久厚生労働相に迫った。

都の幹部「いまの体制ではフォローできない」

 田村氏は「中等症もいろんな方がいる。呼吸管理されている方が入院しない、自宅に戻すということはありえない」と説明。別の質問者にも「医療資源は短期間に急に増えない。緊急事態に入りつつあるなか、先手先手を打って対応している」と理解を求めた。

 厚労委では、感染拡大に歯止めがかからないなか、政府のコロナ対応が後手に回ってきたことへの批判も相次いだ。

 立憲民主党長妻昭氏は、デルタ株の感染力の強さは以前からわかっていたとして、「人災だ」と批判。「まず、国民の皆さんに対する謝罪から始めるべきだったのではないか」と田村氏に迫った。

 政府の新方針について、政府対策分科会の尾身茂会長は厚労委で問われ、「政府とは毎日いろんなことで協議しているが、この件に関してはとくに相談、議論をしたことはない」と答弁した。

 その上で、尾身氏は「入院か在宅か、という議論になりつつあるが、今の感染状況の中で国民のニーズに応えるためには一本足打法は駄目だ」と苦言を呈した。病院だけでなく、開業医や訪問看護など地域全体の医療体制を強化することや、宿泊療養施設の強化などを挙げ、「総合的にやることが必要だ」と訴えた。(吉川真布、笹井継夫)

入院判断の指針 見直し急ぐ
 政府が新型コロナウイルス患者の「入院制限」を打ち出したことを受け、東京都は、医療機関や保健所が入院が必要かどうかを判断する際の指針を見直す。より重症化リスクの高い患者らに入院する範囲を狭める一方、入院に至らない患者のケアを充実させるため、宿泊療養施設での医療機能や自宅療養者の経過観察の体制を強化する方針だ。都は4日、都医師会の幹部らに検討状況を説明。方針が決まり次第、医療機関や保健所に通知する。

 都が昨年11月に作成したいまの入院指針では、中等症に該当する患者のうち、38度以上の発熱がある▽血中酸素濃度が96%以下▽肺炎が疑われる症状があるなどの場合は、原則入院対象としている。軽症者は原則自宅で過ごし、入院は中等症以上の患者に絞ることを徹底することも医療機関に通知するという。

 都が入院指針の見直しを進める背景にあるのは、入院患者数の急増だ。3日時点で3351人に上り、病床の使用率は最も深刻な「ステージ4」の50%を超えた。いまだ感染急拡大が収まらない中、入院者数を抑えることは喫緊の課題となる。「リスクの高い人に入院を絞り、自宅療養をさらに活用すべきだ」(都幹部)との意見も出ており、国と水面下でやり取りを続けてきた。

 都は入院対象を絞る一方で、増加が見込まれる宿泊・自宅療養向けの体制強化も進めてきた。

 医療が最も逼迫(ひっぱく)した冬の第3波以降、宿泊療養施設を2千室増やし、7月に酸素吸入や薬の投与もできる「入院待機ステーション」を開設。自宅療養者には、LINEや電話で経過観察を行う「フォローアップセンター」を昨年11月に設置。療養者に配る血中酸素濃度を測るパルスオキシメーター4万台を確保し、24時間態勢で相談を受け、1週間分の食料を届けてきた。

 都は今後、同センターの人員を拡充し、入院先が見つからずに自宅にいる患者を重点的に経過観察の対象とする方針だ。だが、都内の自宅療養者は7月初旬の1千人台から10倍超の1万4千人に達し、過去最多を更新し続ける状態が続く。すでに自宅療養者からの相談の受け付けは滞っているのが現状だ。

 医療政策を担当する都幹部は「自宅で体調が急変しても、いまの都の体制では適切なフォローができない恐れがある。自宅で亡くなってしまう方が増えるリスクが生じてくる」と話す。(池上桃子、軽部理人)