YouTube のおかげで、アクセントの強いいろいろなイギリス英語を聞くことができる

 中学・高校生の頃より、フォークやポップス・ロックなど、アメリカ音楽に興味をもち*1、私大付属高でかけだし英語教師となって、イギリスかアメリカに研修に行ける機会を得たときも、自分は躊躇なくアメリカ合州国の西海岸で歩けそうな街・サンフランシスコを選んだ。だから、俺が集中的に聞いてきたのは、アメリカ英語だ。さらに、ワイカト大学で、TESOLとマオリ語の研修を受けながら、イギリス系と言うべきアオテアロアニュージーランドに滞在したことがあったけれど、イギリスには、アイルランドに短期家族旅行(1999年)にでかけた際に、トランジットでヒースロー空港に少し滞在したくらいで、陸に足を下ろしたことはなかった。本家本元・イギリスには、最後に出かけていって、「英語は数にうるさい言語なのに、なんでsamurai は、Seven Samurai なのか。なぜ、Seven Samurais ではないのか」なんて、バーテンダーにバーで嫌味を言ってやろうというのが俺のくだらない望みだった。

 そもそも、アメリカ英語と比較しても、イギリス英語のほうが、島国イギリスの面積は狭いのに、たくさんのアクセント(訛り)がある印象がある*2*3。イギリスといっても、イングランドウェールズスコットランドを併合した歴史をもつから、イングランドスコットランドウェールズ北アイルランドと、独立性が強く存在するのも当然のことだろう。さらに、イギリス英語には、「イギリス病」的な、頑固で、商業テレビなどに駆逐されない根強い共同体愛・地元愛が感じられる印象を、根拠なく、長年もっていた。英語として、アメリカ英語だけでも精一杯なのに、地酒のような味わいのある多様なイギリス英語を敬遠したのは、当然だ。だからイギリス英語の実相など、全くもってちんぷんかんぷん。わからない。

 ところがYouTube のおかげで、いろいろなアクセントのある英語に触れることができる時代となった。それで、少しずつ聞き始めていると、英語学習番組の担当者・先生は別にして、地元の人たちの会話となると、やはり嫌になるほど、わからない。TEDのようなフォーマルなスタイルの講義調はわかったとしても、地元の人たちの口語的な会話となると、さっぱりわからない感じだ。

 このところ、思うところがあって、そうした多種多様な、その意味では豊かなイギリス英語のアクセント(訛り)に慣れるために、これまであまり聞いてこなかったイギリス英語を聞こうと考え、AIの ChatGPT などに何を聞いたらよいか、AI から助言を得ながら、BBC放送などを聞き始めているところだ。

 そうしたBBCの番組のひとつに、"Desert Island Disks" というのがある。

 これは、孤島に流されたときの音楽として何を持っていくかというインタビュー番組で、ゲストがミュージシャンなら、たとえば、80年代にPaul McCartney は、同じくイングランドリバプール出身の John Lennon の "Beautiful Boy" を数曲の中の一曲としてあげていた。この番組は、こうした音楽紹介はもちろんあるけれど、それは二の次で、スヌーカーのチャンピオンなどのゲストそのものを紹介することがメインな感じのときもある。いずれにしても、そうした番組で感じる印象は、とりわけ司会者がイギリス英語でインタビューする際のゲストミュージシャンのアクセント(訛り)が強いのに、その歌声には強いアクセントが感じられないことだ。ニーナ・シモンの "I Put A Spell On You" を紹介するエルトン・ジョンイングランド出身)やフィル・コリンズイングランドはロンドン出身)や Ray Charles の "Old Man River"やFred McDowell の "Write Me a Few Lines" を取りあげたマイク・ノップラー(スコットランド生まれ・イングランド出身)も多少そうした傾向があるように感じた。

 これはなぜなのか。

 さきほど、イギリス英語は敬遠してきたと書いたが、唯一例外は、The Beatles のインタビュー。The Beatles のインタビューは、レコードも持っているし、とくに聞いたのは、"John & Yoko The Interview (BBC)" である。けれども、なぜか、イギリスのミュージシャンが、話すときには強いアクセントを感じるのに、歌うときにはアクセントが感じられないという現象を発見し気づくことはなかった。

John & Yoko The Interview (1990)

 こうした疑問について、ChatGPT に聞いてみると、ChatGPTは、以下のように答えてくれた。

 イギリスのミュージシャンが話すときには強いアクセントがあるのに、歌うときにはアクセントがあまり感じられないのは、いくつかの要因によるものです。

1. アメリカ英語の影響:ポップやロックの音楽は、アメリカ英語の発音が標準とされることが多く、影響を受けたイギリスのミュージシャンも、自然とアメリカ風の発音やイントネーションで歌うことがあります。これは、特にロックやポップスの歴史がアメリカの音楽に深く根ざしているためです。


2. 歌のリズムとメロディ:歌のリズムやメロディによっては、強いアクセントが抑えられる傾向があります。話すときのように特定の単語やフレーズに独特のイントネーションをつける必要がないため、自然と「ニュートラル」な発音になります。こうした要素が、特定の地域的な訛りが薄れる原因になります。


3. 録音やプロデューサーの意図:録音の際、プロデューサーやレコード会社から「ニュートラルな」発音を求められることもあり、特に国際的に売り出す場合には、方言が薄れるように指導されることもあります。ジェネシスフィル・コリンズエルトン・ジョンなどは、幅広いリスナー層を意識してニュートラルな発音を選んだ可能性が高いです。

 

 このため、イギリス英語のアクセントが強い人でも、歌の中では標準的で中立的な発音をしているように感じることが多いのです。

 なるほど。ChatGPTは、まことしやかにウソをつくことがある。これは「事実」というより「意見」であるが、これもアメリカの文化的汚染 (American cultural contamination) の一種なのだろう。

 少しばかりイギリス英語とアメリカ英語の構図が見えた感じがした。

*1:高校生のとき追いかけていた70年代ウェストコーストロック ー映画「ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック」・「エコーインザキャニオン」を観てー - amamuの日記

*2:たとえばブリティッシュ・カウンシルのHPのアクセントの説明。https://www.britishcouncil.jp/studyuk/living/english-language。車で1時間しか離れていないリバプールマンチェスターでも異なるアクセントだという。この点はLuke's English Podcastでも触れていた。

*3:なぜ、狭いイギリスにそんなにも多くのアクセントがあるのか。これについては、学術的な話ではないが、communication accommodation theoryを紹介したLuke's Podcast の説明がおもしろかった。- YouTube"Why are there so many accents in the UK? LEP Video Podcast - Learn English with Luke Thompson"